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著作権侵害と刑事罰

 2023-07-16185

『中国刑法』(以下「刑法」という)では著作権侵害について、著作権侵害罪(217)と著作権侵害の複製品販売罪(218)という総括的な条文しか設けられておらず、かかる犯罪の構成要件、法定刑等も原則的な規定に留まっている。そこで、最高人民法院と最高人民検察院は、著作権刑事事件の具体的な立件基準、量刑の考慮要素等を統一させるため、200412月と20074月にそれぞれ『知的財産権侵害刑事事件の処理における具体的な法律適用の若干問題に関する解釈』(法釈[2004]19号、以下「法釈()」という)および、同解釈その二(法釈[2007]6号、以下「法釈()」という)を公布した。さらに、著作権侵害事件の捜査、立件、起訴、審理等の各段階の管轄、証拠収集、鑑定等の実務問題を明確にするため、2011110日、最高人民法院、最高人民検察院、公安部が連名で『知的財産権侵害刑事事件の処理における法律適用の若干問題に関する意見』(法発[2011]3号、以下「意見」という)を公布した。以下、著作権侵害刑事事件における法執行の実務について、簡単に紹介する。

 

■  著作権犯罪の構成要件

日本では、著作権を故意に侵害した場合にのみ刑事罰が科される。これに対し、中国の著作権侵害罪の構成要件としては、故意だけではなく、営利を目的とすること、並びに一定の違法所得額があること(一定の違法所得額がない場合、その他の重大な状況1があること)が要求されている。なお、「営利を目的とする行為」について、「意見」は以下のように認定基準を明確にしている。

1.   権利侵害品の販売行為

2.   他人の作品に有料広告を掲載、第三者の作品と組み合わせる等の方法で直接又は間接的に費用を徴収する行為

3.   情報ネットワークを通じて他人の作品を伝達し、又は他人を利用して権利侵害作品をアップロードすることにより、ウェブサイトに有料広告サービスを提供して直接又は間接に費用を徴収する行為

4.   会員制という方法で情報ネットワークを通じて他人の作品を伝達し、会員の登録費又はその他の費用を徴収する行為

5.   他人の作品を利用して利益を得るためのその他の行為。

 

■  著作権犯罪の種類と認定基準

著作権侵害行為に対して、著作権者による損害賠償請求等の民事責任追及のほか、著作権行政管理部門による過料等行政処罰を受ける以外に、著作権犯罪の要件を満たせば懲役等の刑事罰が科される。「刑法」では、著作権犯罪の類型は以下の6種類に限定されている。

1.   著作権者の許諾を経ずに、その文芸、音楽、美術、視聴覚の著作物、コンピューターソフトウェア及び法律、行政法規が規定するその他の著作物を複製発行2し、インターネットによって公衆に伝播した行為

2.   他人が専有出版権を有する図書を出版した行為

3.   録音録画製作者の許諾を得ないで、当該製作者が製作した録音録画を複製発行し、インターネットによって公衆に伝播した行為

4.   実演家の許諾を得ないで、該当実演の録音録画製品を複製発行し、インターネットによって公衆に伝播した行為

5.   他人の署名を冒用した美術品を製作し、販売した行為

6.   著作権者又は著作権に関連する権利者の許諾を得ないで、権利者がその著作物、録音録画製品等のために著作権又は著作権に関連する権利を保護した技術措置を故意に避け、又は破壊した行為

罪名

認定基準

量刑

著作権侵害罪(上記1ないし6)(「刑法」217)

(1)  違法経営額35万人民元以上若しくは違法所得額が3万人民元以上

(2)  上記1の複製品が500()以上

3年以下の懲役、罰金の併科又は単科

(3)  違法経営額が25万人民元以上若しくは違法所得額が15万人民元以上

(4)  上記1の複製品が2500()以上

3年以上10年以下の懲役と罰金の併科

権利侵害複製品販売罪(「刑法」218条)

違法所得額が10万人民元以上4

5年以下の懲役、罰金の併科又は単科

 

■  著作権犯罪の管轄

日本では、著作権侵害罪は親告罪であるため、著作権者自ら告訴しなければ、公訴を提起することができない。中国の場合、著作権刑事事件は公安機関により捜査・立件され、検察機関により公訴を提起されるのが原則である5。管轄地については、犯罪地6の公安機関が捜査立件するのが原則であるが、侵害容疑者の居住地の公安機関を捜査管轄機関とする場合もある。

なお、著作権を含めた知的財産権犯罪事件の捜査機関は、各地方の公安局の経済偵査大隊とその傘下支隊が担当するのが一般的である。例えば、上海の場合、上海市公安局経済偵査大隊は違法所得額の総額が1千万人民元以上又は外国人犯罪の案件を管轄しており、上海市各区の経済偵査支隊は1千万人民元以下、且つ権利侵害者が外国人でない案件を管轄している。

 

1 法釈()第1条では、「重大な状況」とは、著作権者の許諾を得ずに、文字著作物、音楽、映画、テレビ、ビデオ著作物、コンピューターソフトウェア及びその他の著作物を複製・発行し、複製品数量が合計500枚(部)以上の場合等が列挙されている

2 中国は、出版物の流通販売につき新聞出版総局から「出版物経営許可証」を取得しなければ経営できないと規制されている。『出版物市場管理規定』(2011325日改訂施行)2条によると、発行とは、総発行、卸売、小売、レンタル、展示会における展示販売等と定義されており、「総発行」とは、唯一の出版物提供経営者がその他の出版物経営者に出版物を販売することを指すものと規定している。これに対して、「意見」12条では、「発行」には、総発行、卸売、小売、情報ネットワークを介した伝達、レンタル、展示会における展示販売等の活動が含まれると解釈された。これにより、営利目的でインターネットを通じて著作物を勝手にコピーし、アップロード又は販売する場合は、刑罰の対象になることを明確にした

3 「違法経営金額」(中国語は「非法経営数額」)とは、行為者が知的財産権侵害行為を実施する過程において、侵害品を製造、貯蔵、運送、販売する価値をいう。既に販売された権利侵害品の価値は、実際の販売価格に基づき算定され、販売されていない権利侵害品の価値は、その値札又は調査により明らかにした権利侵害品の実際の平均販売価格に従い算定される。権利侵害品に値札をつけず、又はその実際の販売価格を調査しても判明できない場合、権利侵害品の市場中間価格に基づき算定される(「法釈」()12)

4 刑法又は司法解釈では、刑事追訴の対象となる権利侵害品販売の枚()数という基準を明確にしていない。この点について、上海の刑事事件審理実務においては、海賊版のCD又はDVDの販売行為に対して、違法所得額が10万人民元以上又は既に1.5万枚を販売した場合、権利侵害複製品販売罪と認定される(上海市高級人民法院刑事第二審判廷、上海市検察院が連名で公布した『海賊光ディスク販売事件に対して如何に法律を適用するかに関する意見(試行)(滬高法刑二[2006]1)を参照)

5 法釈()7条によると、被害者が知的財産権侵害を証明する証拠を有する刑事事件の場合、直接に人民法院に提訴し、人民法院がこれを受理しなければならないと規定している

6 「意見」(法発[2011]3)によると、ここで言う犯罪地とは、権利侵害製品の製造場所、保管場所、販売場所、権利侵害品を伝達する場合のサーバー設置場所、ネット接続場所、プロバイダー所在地、権利侵害作品をアップロードする者の所在地、権利者が実際に損害を受けた侵害の結果が生じた場所を指す。