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国務院による渉外知的財産権紛争処理に関する規定

 2025-06-0381

2025年3月13日、国務院は、渉外知的財産権紛争を予防及び解決し、外国による知的財産権に関する差別的な制限措置に対応するため、「国務院による渉外知的財産権紛争処理に関する規定」。(以下「規定」という)を公表した(施行日は2025年5月1日)。

規定は計18条からなり、国務院の知的財産権管理部門及び商務主管部門による外国の知的財産権法制度に関する情報の収集及び渉外知的財産権紛争処理の指導のほか、国外機関による中国内の証拠収集や送達に対する規制、外国の差別的措置への対抗措置などを規定している。

本稿では、規定の特に重要と思われるポイントを簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は規定の当該条文を指すものとする。

国外機関による調査及び証拠収集の規制

中国「民事訴訟法」及び「国際刑事司法協助法」によれば、いかなる外国機関又は外国個人も、主管機関(司法部を指す)の承認なく、中国国内で文書を送達したり、調査・証拠を収集したりしてはならないとされている。

規定は、かかる規律を補完する中国国内のルールを設けている。すなわち、中国国内の組織や個人が、国外の知的財産権に関する訴訟、司法、法執行機関の調査に関与し、国外に対し証拠資料を提供する場合、国家機密保護、データセキュリティ、個人情報保護、技術輸出管理、司法協力などの規定を遵守し、法律に基づき主管機関の許可を得る必要がある場合、関連する手続を履行する必要がある(第13条)。

例えば、知財関連のデータを国外提供しようとする場合、国家インターネット情報管理部門が実施するデータ安全評価または認証を経て初めて提供することができる(「個人情報保護法」第36条、第38条及び第40条等)。また、中国内にある組織や個人がその中国内に保存されているデータや個人情報を外国の裁判所または法執行機関に提供する場合でも、上記安全評価・認証手続のほか、国際司法協力に関わる場合は、中国司法部の承認手続を経る必要がある(「データ安全法」第36条)。

これらの規定により、中国企業及び日本企業の中国支店が、中国国外における訴訟の調査に協力するため、技術資料などのデータを提供する場合、事前に関係部門の審査または届出を行う必要があるため、留意する必要がある。

知的財産権の渉外紛争についての措置

中国「対外貿易法」第28条及び第29条は、国務院が、知的財産権侵害など対外貿易秩序を害する行為に対し、調査を実施したり、必要な措置を講じたりすることができるとしている。規定は、かかる調査や必要な措置の対象となる事項を、以下のように具体化している(第14条)。

1.輸入貨物が知的財産権を侵害し、対外貿易秩序を害する場合。

2.知的財産権の権利者が、ライセンス契約において、ライセンシーが当該知的財産権の有効性を争うことを阻止する条項(知的財産権不争条項)を設けたり、強制的な包括ライセンスを行ったり、排他的なグラントバック条項を定めたりするなどの行為を行い、対外貿易の公平な競争秩序を害する場合。

3.その他の国または地域が、知的財産権保護について、中国の公民や組織に国民待遇を与えていない場合、または中国からの貨物、技術またはサービスに対して十分かつ有効な知的財産権保護を提供できない場合。

なお、仮に技術契約(技術譲渡、技術ライセンス、技術研究開発、技術サービスに関する契約などが含まれる)に上記2の条項が定められた場合、当該契約は「技術の違法独占、技術成果の侵害」に該当し、無効となる(中国「民法典」第850条)。

また、「技術の違法独占」について、最高人民法院の司法解釈は、以下のような状況が該当するとしている。

1.不必要な技術、原材料、製品、設備、役務の購入及び不必要な人員の受入れを含め、技術受領側に技術の実施に不可欠でない付帯条件を受け入れるよう要求する場合。

2.技術受領側が契約対象技術の知的財産権の有効性に対して異議を申し立てることを禁止し、または異議申立てに対して条件を付する場合。

外国の差別的措置への対抗措置

中国「反外国制裁法」(2021年6月10日施行)は、国務院の関連部門が、差別的制限措置の策定、決定、実施に直接的または間接的に関与した組織や個人を「対抗措置リスト」に掲載することができるとしている。対抗措置には、主として出入国制限、財産の差押えや凍結、取引制限が含まれる(反外国制裁法第4条及び第6条等)。

規定は、外国国家が知的財産権紛争を口実として差別的措置を行った場合、国務院の関連部門が、「対外関係法」や「反外国制裁法」等の法律に基づき、直接または間接的に差別的な制限措置の制定、決定、実施に関与した組織や個人に対し、対抗措置リストへの掲載、対応する対抗・制限措置を講じることができるとしている(第15条)。

また、規定は、いかなる組織や個人に対しても、知的財産権紛争を口実として、中国の公民や組織に対して差別的な制限措置を実行したり、協力したりすることを禁止し、これに違反して、中国の公民や組織の合法的な権益を侵害した場合、中国の公民や組織は、人民法院に訴訟を提起し、侵害の停止や損害賠償を求めることができるとしている(第16条及び「反外国制裁法」第12条)。

かかる規定により、知的財産権に関してトラブルを抱えている企業は、規定や関連法規を根拠として制裁措置を受ける可能性もゼロとはいえない。そのため、中国で事業展開する企業は、サプライチェーン内の企業が「対抗措置リスト」に掲載されていないか、定期的にスクリーニングを実施するなど、必要な措置を行うべきであろう。

おわりに

本稿で述べたほか、規定は、企業及び機関に対し、知的財産権紛争に対する事前の予防を共同で行うことを奨励している。また、規定は、渉外知的財産権紛争の処理過程における国務院等の役割を定めており、国務院等が対外知的財産権紛争の処理において主体的な地位を有することを明確にしている。

規定の施行により、渉外知的財産権紛争の処理や差別的措置への対抗措置について、実務上いかなる運用がなされるか、また、中国業務に関与する外国企業の経済活動にどのような影響が生じるかを、引き続き注視する必要がある。

 


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