×

WeChatを開いてQRコードをスキャンする
WeChatパブリックアカウントを購読する

ホームページ 事務所について 専門分野 インダストリー 弁護士等紹介 グローバルネットワーク ニュース 論文/書籍 人材募集 お問い合わせ 配信申込フォーム CN EN JP
ホームページ > 論文/書籍 > 法律考察 > 『不正競争防止法(改正草案意見募集稿)』

『不正競争防止法(改正草案意見募集稿)』

 2023-02-15168
[要約]3度目の改正に向けた意見募集稿

概 要

20221122日、中国国家市場監督管理総局は『不正競争防止法(改正草案意見募集稿)』(以下「意見募集稿」という)を公表し、同年1222日までパブリックコメントを募集していた1。中国の不正競争防止法(以下「不競法」という)は、1993年に施行され、2017年と2019年に2回改正されている。これまでの主な改正内容は、2017年は不正競争行為の認定基準の修正、2019年は営業秘密に対する保護の強化や悪意のある権利侵害に対する処罰の厳格化であった。

今回の意見募集稿では、主に、デジタル経済2における不正競争防止に関する規定の新設、不正競争行為の種類の細分化3、商業宣伝に関する不正競争行為の補足修正等が定められている。意見募集稿の修正内容は多岐に及ぶが、本稿では、虚偽宣伝と信用毀損に関する改正内容のポイントを紹介する。なお、本稿の下線部分は、意見募集稿における修正内容である。

虚偽宣伝に関する改正ポイント

現行不競法第8条は、経営者による商品の性能、機能、品質、販売状況、顧客評価、受賞歴などについて虚偽又は誤解を生じさせる商業宣伝を行うことで消費者を欺く又は誤解を生じさせる行為(1項)、虚偽の取引を実施するなどの方法で他の経営者が虚偽又は誤解を生じさせる商業宣伝を行うことに対する協力(2項)を禁止している。

この点については、デジタル経済の発展に伴い、インターネットを通じた新しい類型の虚偽宣伝が絶えず発生している4。かかる状況を踏まえ、意見募集稿第9条は、虚偽宣伝の該当要件を次のように修正している。

      インターネットを通じて発生する新しい類型の不正競争行為を規制するため、虚偽宣伝の対象を「商品又は商品経営者の性能、機能、品質、類別、出所、販売状況、顧客の評価、受賞歴、取引情報、経営データ、資格などの関連する情報について虚偽又は誤解を生じさせる商業宣伝を行うこと」に拡大した。

      虚偽宣伝の対象者を「消費者」から「関連公衆」に拡大した5

      虚偽宣伝に対する協力行為として、以下の行為が規定されている。

(a)      虚偽の取引・虚偽の口コミなどの実施

(b)     虚偽宣伝のための発表などのサービス提供

また、商業宣伝のほとんどの方法は、広告法で規定される広告活動に該当する6。そのため、経営者が商品について虚偽又は人に誤解を生じさせる商業宣伝を行った場合に、当局が行政処罰を下す法的根拠として、広告法を適用すべきか、それとも不競法を適用すべきかについて、実務上の判断基準はまだ明確になっていない7

この点について意見募集稿は、「商業宣伝には、主に経営場所、展示活動、ウェブサイト、自媒体(セルフメディア)、電話、宣伝チラシなどの方法を通じて、商品を展示、実演、説明、紹介または文字表記するなど、広告ではない商業宣伝活動が含まれる」と新たに規定している。同規定は、商業宣伝と広告を区別する法的根拠となりうる。

信用毀損に関する改正ポイント

他の経営者の信用を損なう不正競争行為について、現行不競法第11条は、「経営者は、虚偽又は人に誤解を生じさせる情報を捏造・流布して、競合相手の商業上の信用または商品の評価を損なってはならない」と規定している。

意見募集稿は、信用毀損の行為および信用毀損の対象について、以下のような修正を加えている。

      信用毀損行為について、「虚偽又は人に誤解を生じさせる情報を捏造・流布し、または他人に捏造・流布させ」に修正された。実務上、経営者が第三者(例えば、マーケティング会社)に委託して他人の信用を毀損した場合、当該経営者の行為も不競法で禁止されている信用毀損に該当することが明からになった。

      信用毀損の対象について、「競合相手」から「競合相手またはその他の経営者」に修正され、競合相手に限定されないことが明らかになった。

なお、最高人民法院は、20211月の「企業の信用・名誉の保護に関する法律の更なる整備に関する提案」に対する回答として、「同業界の競合相手間で取引機会を奪い合うことのほか、非同業界の経営者間でも、信用誠実の原則に違反し、他の経営者の競争力を損ない、市場競争秩序に悪影響を及ぼす現象が発生している。このような状況を踏まえ、実務上、不正競争行為に該当するか否かを判断するにあたり、競争関係の存在を必要条件とすべきではないと一般的に考えられている」と述べている8

信用毀損に関する裁判例でも、競争関係にないとしても不競法で規制されている信用毀損に該当するとされることが一般的である9。意見募集稿は、司法実務における一般的な考え方に基づき、競争関係を信用毀損の必要要件としないことを明らかにしたものと考えられる。

おわりに

今回の意見募集稿を見ると、不競法は企業の宣伝行為に対し、より厳しく、より全面的な規制を実施する傾向にあることが読み取れる。そのため、企業は自社または他社の商品を宣伝する際、より一層、事実に基づかない表現、誇張表現や断定的な表現を使用しないよう注意しなければならない。また、同業者や他社商品との比較は、控えめかつ慎重に行うことを要する。不競法は、企業の宣伝活動に影響を及ぼす可能性があるため、同法の改正状況や内容について、引き続き注視を要する。

1 https://www.samr.gov.cn/hd/zjdc/202211/t20221121_351812.html

2 デジタル経済は、インターネット経済とも呼ばれ、デジタルテクノロジーを通じて、デジタル産業がけん引する経済のことを指す。デジタル経済の主要な業態には、電子商取引(EC)プラットフォームやネットライブ配信などがある。

3 例えば、意見募集稿第7条は、商業混同行為として、他の一定の影響力を有する自媒体(セルフメディア)やアプリケーションの名称を使用することなどを追加している。

4 例えば、国家市場監督管理総局が公布した「2021年度重点分野の不正競争防止法執行の典型事例」では、インターネットを通じた虚偽宣伝に関する処罰事例が開示されている(https://www.samr.gov.cn/xw/zj/202107/t20210728_333120.html)。なお、処罰事例の多くでは「刷単炒信」(経営者がインターネットなどを利用した事業活動の際に、架空取引・やらせレビューなど行うことを指す)が行われていた。

5 この点は、最高人民法院が制定した「『不正競争防止法』適用に関する若干問題の解釈」(法釈[2022]9号、2022320日施行)第16条の規定と一致している。すなわち、同条は「経営者が商業宣伝を行う際に、真実ではない商品に関連する情報を提供し、関連公衆を欺き又は誤解を生じさせた場合、人民法院は、不正競争防止法第81項の規定に従い、虚偽の商業宣伝と認定する」と規定している。なお、一般的に「関連公衆」の範囲は「消費者」よりも広いと考えられるが、現在、不競法や関連法規において「関連公衆」の定義は規定されていない

6 広告活動とは、商品経営者または役務提供者が一定の媒体および形式(筆者注:例えば、ラジオ、テレビ、インターネットなどを指す)を通じて、直接または間接的に自己の販売する商品または役務を紹介することをいう(広告法第2条)。

7 例えば、裁判例((2019)津01行終951号)においては、事業者による微信公式アカウント、パンフレット、対面販売、モデルルーム展示などの商品宣伝に虚偽の記載があったため、法執行機関は虚偽宣伝と認定した。事業者は、不競法ではなく広告法に基づいて行政処罰を下すべきであると主張したが、裁判所は「広告とは、有料で新聞、雑誌、看板、チラシ、ラジオ、テレビなどの媒体を通じて商業上の紹介をする行為を指すものであり、対面販売およびモデルルーム展示は含まない。広告法に規定された広告活動には、事業者の宣伝行為すべてが含まれていないため、不競法を適用すべきである」と判断している。

8 「最高人民法院による第13期全人代会議第3386号提案に対する回答」を参照されたい。https://www.pkulaw.com/chl/4542133c5d7ea1b1bdfb.html

9 例えば、裁判例((2020)京73民終2182号)において、裁判所は「競争関係は、直接競争関係と理解してはならず、経営者間の競争を阻害し、消費者または社会公共の利益を侵害する間接的な競争関係も含まれるべきである」と判断している。