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中国における営業秘密の訴訟実務

 2023-05-02204

営業秘密の不正取得、使用、開示に対する民事救済手段としては、侵害行為の差し止め、損害賠償請求の民事訴訟提起が一般的である。しかし、営業秘密訴訟事件においては、原告側が営業秘密の内容、侵害事実等について立証しなければならず、また、審理過程が非公開審理とはいえ法廷での証拠提出による営業秘密の二次漏洩の恐れもあるという特徴から、訴訟の準備段階及び開廷審理段階においてはより慎重かつ丁重に対策を取らなければならない。以下では、中国における営業秘密訴訟実務での留意すべき点を簡単に説明する

● 営業秘密の構成要件

中国法上「営業秘密」の構成要件は、日本と同じく、「非公知性、有用性、秘密管理性」1という三つの要件をすべて満たしたもののみが該当するとしている。民事裁判における上記要件の認定基準については、20071月に最高人民法院が公布した「不正競争民事事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(法釈【20072)(以下「法釈」という)で以下のように詳細に規定している。

1.      非公知性の認定
関連情報がその所属分野の関連人員にとって周知の情報ではなく、容易に入手可能な情報ではない場合。例えば、当該情報がその所属する技術又は経済分野の者の一般常識又は業界慣例である場合、公開ルートで入手できる場合等はそれに該当しない。

2.      有用性の認定
関連情報が現実的又は潜在的な商業価値を有し、権利者に競争上の優位をもたらすことができる。

3.      秘密管理性の認定
権利者が情報漏洩防止のため、商業価値等の具体的な状況に対応する合理的な保護措置を講じている場合。この「合理的」の判断要素は①当該情報の媒体の特徴、②秘密保持に対する権利者の意思、③秘密保持措置の識別可能の程度、④他人が正当な方法により入手する場合の難易度等が挙げられる。
なお、司法実務上、「秘密管理性」要件を満たしているかどうかの判断が最も困難であるため、「法釈」第11条では、その判断を容易にするように、アクセス権限範囲の限定、秘密保持契約の締結等7つの具体的な状況を例示している。

●  立証責任分配の法則

民事訴訟事件の立証責任の分配規則は、原則として、証拠を示す責任を主張する側に負わせている。「法釈」でも、営業秘密が侵害されたと主張する場合、原告側は以下の事項について証明する義務があると規定している。すなわち、①その保有している営業秘密が法定条件に合致すること2、②系争営業秘密が原告側の営業秘密と同一又は実質的に同一であること、③被告側が不正手段を行なったこと。
上記③の事実を証明することは原告側にとって非常に困難である。実際の審理においては、上記①及び②が証明された状況において、③については、原告側が、被告側が秘密情報にアクセスできることを証明できれば、被告側が秘密情報を合法的なルートにより入手したことを証明できない限り、裁判官は推定により③の事実が存在すると判断するのが原則となっている3

ちなみに、上記の原告側の主張に対し、被告側も主に以下のように抗弁を行なうのが一般的である。

1.      原告側が保有している営業秘密が営業秘密の構成要件を満たしていないこと。例えば、系争営業秘密が公知技術に属すこと、原告側が権利者ではないこと、原告側が講じた秘密保持措置が「合理的」ではないこと等である。

2.      被告側が使用、開示した営業秘密が系争営業秘密と異なるものであること

3.      係争営業秘密は被告側が合法的なルートにより入手したものであること。例えば、系争営業秘密が他の正当な権利者からライセンスにより取得したものであること、権利侵害者の違法行為を知らずに侵害者から取得したこと(善意取得)、リバースエンジニアリングにより取得したこと等。

●  営業秘密侵害事件の秘密審理

「民事訴訟法」第120条よると、営業秘密に関する事件は、当事者からの非公開審理の申出により非公開で審理を行うことができるとされている。原告が保有している営業秘密の漏洩が訴訟によりさらに拡大することを防ぐために、訴訟においては下記の方法が想定される。

1.      立件手続を行った後、関係者全員に秘密保持承諾書の提出を裁判所に要求すること。

2.      証拠資料を相手側当事者に提供することなく、当事者が法廷で調べられるようにすること。

3.      開廷審理の際に、系争営業秘密に関する証拠を提示しないようにし、相手側当事者に対し秘密情報に関する内容を記録しないよう要求すること。

4.      当事者双方に、系争秘密内容について守秘義務を負う旨を明確に告知すること。

5.      公開にて判決を言い渡す際に、勝訴者と敗訴者のみについて公開し、判決文の内容については公開しないようにすること。

6.      判決を言い渡した後に、事件の書類を全部封印して、裁判所の資料保管室で適切に保管し、他人の閲覧等を禁止すること。

●  その他の留意点

営業秘密侵害行為が発生した後に、迅速かつ有効的に対応すること、すなわち権利侵害に対する救済方法を選択することも極めて重要である。中国ではこれまで、上記のように民事訴訟による救済が少なくなかった。しかし最近では、営業秘密侵害事件について、侵害結果の深刻化、営業秘密侵害行為の再発事件も増えていることから、より大きな打撃を侵害者に与えるよう、営業秘密の保有者が民事訴訟による救済ではなく、公安機関に事件を通報し侵害者に刑事責任4を求めるケースも増える傾向にある。

 

1 「不正競争防止法」第10条では、営業秘密とは、公知ではない、権利者に経済的利益をもたらすことができ、実用性を具え、かつ権利者が秘密措置を講じている技術情報及び経営情報をいう旨を規定している。

2 営業秘密が法定条件に合致する証拠とは、営業秘密が実際に存在していると証明できるものを指す。「法釈」では、これらの証拠には具体的に営業秘密情報の媒体、営業秘密の具体的な内容、営業秘密の商業的な価値、秘密保持措置が含まれると規定している。

3 「法釈」では、推定によるこの判断方法については明確にしていない。しかし、最高人民法院が公布した「民事訴訟証拠に関する若干規定」(法釈【200133)9条では、法律の規定又は既知の事実及び日常の生活経験則に基づき推定できるその他の事実については、当事者が証明することを要しないと規定している。したがって、営業秘密侵害事件において、「被告側が不正な手段を行なったこと」について原告側が「被告側が営業秘密にアクセスする条件を有すること、被告側が使用、開示した営業秘密が原告側の営業秘密と同一又は実質的に同一であること」のみ証明を行えば、裁判官は日常の生活経験則に基づき推定でき、原告側の証明は不要であるとする推定方法の採用が裁判実務上で定着している。

4 「刑法」第219条では営業秘密侵害罪を設けており、最高10年以下の有期懲役に処し、罰金を併科するものと規定している。なお、2020912日に最高人民法院、最高人民検察院が連名で公布した「知的財産権侵害の刑事事件について具体的な法律応用の若干問題に関する解釈()」(法釈【202010号)によると、営業秘密侵害罪の立件基準について、以下のいずれかの疑いがある場合、刑事事件として立件しなければならないものと規定している。(1)権利者に損失額を30万人民元以上もたらした場合、(2)違法取得額が30万人民元以上の場合、(3)権利者を破産させた場合、(4)権利者にその他の重大な損失を与えた場合。