会社登記強制抹消制度に関する実施弁法
緩和で整備された市場参入制度と比較して、「中華人民共和国会社法」(以下「会社法」という)の退出制度に関する規定は明らかに不十分である。実務上、営業許可証を取り消された後、複雑な抹消手続、高額な清算コスト又は債務紛争を回避するため、抹消の届出をせずに放置ぱなしする企業が少なくない。これによって、「ゾンビ企業」問題が引き起こされている。これらのゾンビ企業は長期間に亘って抹消されていないため、その情報が悪用され、市場秩序が乱され、取引コストを増加させられる恐れがある。
ゾンビ企業問題を解決するため、既存の申請による抹消(37条の一般抹消及び240条の簡易抹消)に加え、2023年に改正された「会社法」は強制抹消制度を確立し、会社の営業許可証が取り消され、閉鎖を命じられ、又は取り消された後、3年を経過しても抹消登記を申請しない場合、会社登記機関が法令に基づきその登記を抹消できることを明確に規定した(241条1項)。同時に、「国務院による『中華人民共和国会社法』登録資本登記管理制度の実施に関する規定」(以下「規定」という)は、公告期間内に異議がある場合、抹消手続を終了させること、異議がない場合、会社登記機関は会社登記を抹消し、国家企業信用情報公示システムに特別注記を行うことができることとさらに規定している(8条2項)。
しかしながら、上記「規定」には強制抹消の手続について明確に規定されていない。強制抹消の開始、異議申立て及び回復等の手続を円滑化させるため、国家市場監督管理総局は2025年9月5日に「会社登記強制抹消制度に関する実施弁法」(以下「弁法」という、国家市場監督管理総局令第105号、同年10月10日から施行)を公布した。「弁法」は全20条からなり、主に強制抹消の手続を細則化している。
本稿では、「弁法」の特に重要だと思われるポイントについて簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は「弁法」の当該条文を指すものとする。
■強制抹消の流れ
1.公告
市場監督管理部門が会社登記の強制抹消を実施しようとする場合、国家企業信用情報公示システムを通じて公告を行い、公告期間は90日間となる(3条1項)。
2.異議申立て
関係部門、債権者その他の利害関係者は、公告期間内に異議を申し立てることができる。異議を申し立てる際には、①身元情報及び②対象会社との間に債権債務関係やその他の利害関係が存在することを証明できる資料を提出する必要がある(4条)。異議が成立した場合、市場監督管理部門は対象会社に対する強制抹消手続を終了させ、対象会社は速やかに清算手続きを開始しなければならない(6条)。利害関係者の債権を保護し、清算制度を通じて少なくともある程度の弁済を受けられることが異議規則の法律的な目的である。債権者は、90日間の異議申立期間を徒過させないよう、定期的に国家企業信用情報公示システムを照会する仕組みを構築し、さらに、取引先との契約、メールのやり取りやチャット記録といった債権債務関係を証明できる資料を保存しておく必要がある。
3.異議審査
異議の申立てを受けた場合、市場監督管理部門は受けた日から7営業日以内に形式審査を行うものとする(5条1項)。異議が成立した場合、強制抹消手続は終了する。ただし、終了日から3年を経過した場合、強制抹消手続を再開することができる(14条3項)。
4.強制抹消登記及び特別注記
公告期間満了日までに異議がない、又は異議が成立しない場合、市場監督管理部門は10営業日以内に「登記抹消決定書」を作成し送達する。対象会社は連絡が取れないため「企業異常リスト」に掲載され、市場監督管理部門は当該決定書を公告送達することができる。(7条)。強制抹消後、市場監督管理部門は国家企業信用情報公示システムに特別な注記を行うこととする。企業は国家企業信用情報公示システムを通じて自社の主体状態を確認し、経営異常記録や未処理の行政処罰の有無を検証する必要がある。特に登録住所と実際の経営場所が一致しない企業は、連絡が取れない企業と誤認されないよう、速やかに変更登記を行う必要がある。さらに、企業は、「会社が営業許可証の取消処分を受けた場合、取締役会は30日以内に清算手続を開始しなければならない」という強制抹消防御条項を定款に追加し、具体的な担当責任者の責任を明確化する必要がある。
5.抹消登記の回復
企業の違法行為、訴訟進捗や清算状況等の情報が異なる政府部門(裁判所、税務局、公安又は税関など)に分散されているのに、市場監督管理部門が部門の内部検証結果に基づき強制抹消手続を執行することが一般的であり、企業が自主的に申告しない又はその他の政府部門が情報をタイムリーに共有しない場合、市場監督管理部門は状況を把握ていないままで当該企業が強制抹消の条件を満たしていると誤認し、誤って抹消手続を行う可能性がある。この場合、関係部門、債権者その他の利害関係者の利益を保護するため、市場監督管理部門は申請により抹消登記を回復する必要がある(10条)。会社株主等は各政府部門から受領した関連する資料を保存し、会社の登記回復が必要な場合に提出しなければならない。
■強制抹消の法的効果
「弁法」は「会社法」241条の規定と同様に、企業が強制抹消された後、元株主及び清算義務者が相応の清算責任を引き続き負うことを明確に規定している(9条2項)。これにより、株主等は企業の残る債権債務関係を適時かつ適切に処理しなければならないこととする。
■強制抹消手続の違法利用に対する罰則
利害関係者が異議を申し立てるか、会社登記の回復を請求する場合、重要な事実を隠蔽する虚偽の資料を提出し又は違法利益を取得するため、市場秩序を乱して最終的に国家安全や社会の公共利益に損害をもたらした場合、特別な規定がない限り、10万元以下の罰金を課せられるとする。従いまして、当事者は、異議申立て又は回復請求を提出する前に、誤って罰せられないよう前述の資料を確実に収集しなければならない。
■結語
「弁法」は強制抹消の手続を細則化し、各地の市場監督管理部門、各種市場主体、その他の関係者に対して、強制抹消登記の手続、強制抹消を予防する方策、及び取引先が強制抹消された場合への対処法を定めた手引きを提供するものである。本「弁法」の施行により、ゾンビ企業問題はある程度解決され、関連リソースがリリースされることが期待できる。