「中華人民共和国企業破産法(改定案)」
現行の「企業破産法」が2007年6月1日から施行されて現在に至るまで、「最高人民法院が関連司法解釈を細化した以外に、何らの改定も行われていなかった。司法実務において、破産事件の審理期間が長い、財産保全の解除が難しく、管財人制度が不健全で、再生制度の役割が十分に発揮されていない等がにより、会社の破産の円滑な進行に支障をきたしている。これらの問題を解決するため、全国人民代表大会常務委員会は2025年9月12日に改正案を公布し、パブリックコメントを募集し始めた。改定案は全16章216条(現行「企業破産法」は全12章136条)からなり、現行企業破産法に対し重大な改定を行った。改定の主な内容は以下の通りである。
一、破産申立て後受理前の保全制度の新設
申立人が破産の申立てをしてから法院が裁定を行うまでに、破産者の財産が価値減少されたり悪意をもって移転される等の緊急情况があったりの場合、債権者、破産人は破産者財産に対し執行中止又は保全措置を講ずるよう申し立てることができる。法院は速やかに承認の可否に関する裁定を行わなければならない(11条1項1文)。債権者は、破産財産から充実した弁済を受けたいと希望する場合、積極的に保全命令の申立て等を提起すべきである。破産者の株主は、破産財産の残余財産から利益を得たいと希望する場合も、積極的に保全命令の申立て等を提起する必要もある。
二、破産手続における否認権制度の整備
行為性質により否認権を分類し、それぞれの構成要件と法的効果を確定する。以下の状況が発生した場合、弁済の可能性を高めるため、債権者は破産者の行為の否認を管財人に要求することができる。
1.財産利益無償処分型
破産申立て前の直近1年以内に、破産者が債権放棄、債権担保放棄、財産の無償譲渡又は期限が到来した債権の履行期限の延長等の財産権益を無償処分する行為があった場合、破産管財人は前記行為を取消すことができる。受益者と破産者の間に関連関係が存在する場合、取消可能期間は破産申立て前の直近2年以内となる(42条)。
2.不合理処分型
破産申立て前の直近1年以内に、破産者が明らかに不合理な価格で行う取引、他人の債務への担保提供又は他人の債務への加入行為があった場合、破産管財人は前記行為を取消すことができる。受益者と破産者の間に関連関係が存在する場合、取消可能期間は破産申立て前の直近2年以内となる。(43条)
3.担保型
担保権の設立又は対抗効力の取得が合理的な期限を超えた場合を除き、破産申立て前の直近1年以内に、破産者が自身に財産担保のない債務に対して財産による担保を提供し、又は期限の到来していない債務をあらかじめに弁済する行為があった場合、破産管財人は原則として取消すことができる(44条)。
三、DIP(Debtor In Possession)型会社更生制度
1.適用要件の明確化
DIPが債権者利益に損害を齎さない場合、破産者の申立てにより、裁判所は審査後に承認することができる(104条1項)。当該改定点は、「九民紀要」111条に規定されている破産者の内部統制システムが正常に機能し、DIPが債務者の事業継続に有利であり、財産の隠匿、移転等債権者利益を著しく害する行為が存在しないことと鮮明な対照をなっている。緩和する理由としては、更生において、管財人による管理よりも、会社の経営をよりよく理解できる取締役等による管理のほうが合理性を備えた更生計画の策定と実施のほうが会社の利益になるからである。破産者にとって、会社維持等のために、破産者は積極的に自己管理を申請すべきである。なお、破産者が中小企業又は零細企業である場合、原則としてDIPによって更生するものとする(183条1項)。
2.廃止要件の明確化
破産者に詐欺又は悪意の行為、手続遅延が存在したり、債権者会議決議によりDIPが取消されたり、管財人又は利害関係人(債権者等)の申請により、裁判所は自己管理を廃止することができる(105条)。つまり、債権者は、破産者に上記の事由があることを発見した場合、破産財産からの配当利益を確保するため、裁判所にDIPの廃止を積極的に申立てなければならない。
3.破産者が経営管理者及び法律、財務等の専門知識を有する者を招聘できることを明確化した(106条)。
四、個人破産制度の初歩的な構築
1.個人破産の適用範囲の初歩的な明確化
会社が破産手続に入った後、当該会社の自然人である株主(以下「連帯個人債務者」という)は、会社債務について連帯責任を負うため債務超過又は明らかに支払能力を欠く等の場合、破産を申し立て、債務を整理することができる(2条3項)。
2.個人破産の法的効果の初歩的な明确
個人破産の申立てが受理された後、連帯個人債務者は行為制限を受け、高消費及び生活又は仕事に必須でない消費行為を行ってはならない(18条)。同時に、会社の破産手続終了又は監督考察期間(5年、174条1項)満了の日まで、連帯個人債務者は、本人及び家族の財産情報を真実、正確、完全に申告及び開示しなければならない(19条)。月ごとに個人の収入、支出及び財産状況等の情報を申告しなければならず、上場会社、非上場公衆会社及び金融機関の取締役、監事及び高級管理職を就任してはならない(174条1項)。基本的な生活水準を維持する部分を超えた収入は、債務弁済に充てなければならない(174条1項)。監督考察期間が終了した後、連帯個人債務者の申請により、債務整理は完了となる(同条2項)。
ただし、不法行為損害賠償責任、消費者生活必需品提供責任、労働者報酬支払責任、所属会社に対する損害賠償責任等は、免除できない(175条)。上記の連帯個人債務者の義務・責任に関する重大な違反がある場合、又は主要債務が公序良俗に反する行為により生じた等の免除されるべきでない場合、未弁済の債務は免除されない(176条)。
したがって、債権者が連帯個人債務者の責任財産から弁済を得ることを希望する場合、当該個人の財産情報に関する管財人の情報(管財人の財産情報通知義務について、174条1項参照)を積極的に注目する必要がある。連帯個人債務者が債務の弁済を免れることを希望するなら、財産情報を期限通りに開示する必要がある。