×

WeChatを開いてQRコードをスキャンする
WeChatパブリックアカウントを購読する

ホームページ 錦天城法律事務所外国法共同事業について 専門分野 インダストリー 律師(弁護士)等の紹介 グローバルネットワーク ニュース 論文/書籍 人材募集 お問い合わせ 配信申込フォーム CN EN JP
ホームページ > 論文/書籍 > 法律考察 > 営業秘密侵害罪の司法解釈に関する改正

営業秘密侵害罪の司法解釈に関する改正

 2025-07-03114

2025年年4月24日、最高人民法院及び最高人民検察院は、「知的財産権侵害刑事事件の処理における法律適用の若干問題に関する解釈」(法釈[2025]5号、以下「法釈」という)を公布し、法釈は同年4月26日から施行されている。

法釈は全31条からなり、①商標権侵害(第1条から第8条),②特許冒用(第9条及び第10条)、③著作権侵害(第11条から第15条)、④営業秘密侵害(第16条から第21条)、⑤知的財産権侵害の共通事項(第22条から第31条)について、刑事法上の構成要件や量刑基準等に関する詳細な解釈を示している。

近年、中国当局は知的財産権の保護を強化しており、検察機関及び公安機関は、事件処理指針を通じて、営業秘密侵害罪の立件ハードルを下げている。これにより、営業秘密侵害罪の事件数が著しく増加していることもあり、法釈のうち④営業秘密侵害罪に関する規定には、実務上特に大きな関心が寄せられている。

本稿では、法釈のうち④営業秘密侵害罪を中心に、改正のポイントを簡単に説明する。なお、特に表記しない場合、引用条文は法釈の当該条文を指すものとする。

営業秘密侵害罪の不正手段について

中国刑法第219条では、営業秘密侵害罪の構成要件として、以下の行為が定められている。

1.窃盗、賄賂、詐欺、脅迫、電子的侵入又はその他の不正手段をもって権利者の営業秘密を取得する行為。

2.前号の手段をもって取得した権利者の営業秘密を開示し、自ら使用し又は他人に使用させる行為。

3.秘密保持義務に違反し、又は営業秘密保持に関する権利者の要求に違反して、自己が掌握する営業秘密を開示し、使用し、又は他人に使用させる行為。

このうち電子的侵入について、過去の司法解釈では、技術的手段(例えば、ハッキングやパスワード解析等)が構成要件とされていた。

これに対し、法釈では、権限なく又は権限を超えてコンピュータ情報システムを使用する等の方法で営業秘密を取得する行為は「電子的侵入」を構成するものとされ、必ずしも技術的手段を講じることは要しないことを規定にした(第16条)。

これにより、他人からアカウントとパスワードを取得した後に、権限を超えてコンピュータシステムにログインし、営業秘密を取得する行為も、「電子的侵入」を構成することになると思料される。

情状の重大性について

中国刑法では、営業秘密侵害行為について、①「情状が重い」又は②「情状が特に重い」ことが求められており、法定刑は、①3年以下の有期懲役及び罰金(併科又は単科)、②3年以上10年以下の有期懲役及び罰金(併科)とされている。

法釈は,刑法における「情状が重い」及び「情状が特に重い」の判断基準として,以下のとおり、より具体的な基準を示している(第17条)。

1.「情状が重い」に関する判断基準(第1項)

a)営業秘密の権利者に与えた損失額30万元以上の場合

b)営業秘密侵害による違法所得額30万元以上の場合

c)直近2年以内に営業秘密侵害により刑事処罰又は行政処罰を受けた後に再犯し、損失額又は違法所得額10万元以上の場合

2.「情状が特に重い」に関する判断基準(第2項)

a)営業秘密侵害行為によって、権利者が重大な経営難に陥り、破産・廃業する直接の原因となった場合。

b)損失額又は違法所得額が、第17条第1項に定める基準額の10倍以上に達した場合(すなわち、累犯でない場合は300万元以上、累犯の場合は100万元以上に達した場合)。

なお、中国刑法第219条の1では、国外の機構、組織、人員のために営業秘密を窃取し、密偵し,買収し、不正に提供する犯罪類型が定められている。同罪は行為犯であり、権利者に損失を与えることや情状が重いことは求められていない。

法釈では、同罪による損失額又は違法所得は第17条第1項に定める「情状が重い」と判断された場合であっても、その量刑は第17条第2項の「情状が特に重い」に適用され、量刑が加重される(第20条)。

損失額及び違法所得額について

法釈は、情状の重大性に関する「営業秘密の権利者に与えた損失額」及び「営業秘密侵害による違法所得額」について、以下のとおり詳細な規定を設けている。

1.損失額とは、主として、①合理的なライセンス料、②権利者が受けた利益損失、③営業秘密の商業上の価値を指すものとされている

(第18条)

②について、以下のとおり、実務における計算方法も詳細に定められている。

計算方法:【権利者が受けた利益損失額被侵害により減少した製品販売数量の総数X権利者の製品あたりの合理的利益】

なお、権利者が、商業運営や商業計画への影響を軽減するため、又はコンピュータ情報システムの安全性その他のシステムセキュリティを回復するために支出した費用は、権利者に生じた損失に算入されるものとされている。

2.違法所得額とは、主として、営業秘密を開示若しくは他人に使用させることにより得た財物その他の財産的利益の価値、又は営業秘密を使用することにより得た利益を指し、以下の計算方法により算定される(第19条)。

計算方法:【違法所得額=模倣品の販売数量X模倣品あたりの合理的利益】

違法所得の算定について、実務上は、司法鑑定や専門家による評価等の手段を活用して具体的な金額を確定することが多い

おわりに

本稿で述べた内容のほか、法釈は、知的財産権侵害の犯罪行為に共通する問題についても詳細な規定を設けている。例えば、知的財産に関する犯罪行為に対して決済サービスを提供した場合、倉庫や物流などの役務を提供した場合等は、共犯として処理されるところ、刑事事件としての犯罪認定基準や量刑基準が定められている。

営業秘密侵害罪については、実務上大きな関心が寄せられているため、法釈施行後の運用状況について注視する必要がある。

 


沪公网安备 31011502005268号 沪ICP备05002643号