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独占民事紛争事件の法律適用に関する新たな司法解釈

 2025-07-3131

2024年6月24日、最高人民法院は「独占民事紛争事件の審理における法律の適用に関する解釈」(法釈[2024]6号、以下「新法釈」という)を公布した。新法釈は、最高人民法院が2012年に公布した「独占行為により生ずる民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する規定」(以下「2012年法釈」という)をベースに、中国「独占禁止法」(以下「独禁法」という) 2022年改正の内容を反映したものである。

2012年法釈は、全16条からなり、裁判管轄、立証責任の分担、立証方法などが定められていた。これに対し、新法釈には、訴訟手続に関する一般的な規定に加え、関連市場の画定、協調行為の考慮要素、支配的地位の濫用の認定方法、損害賠償額の算定方法などが盛り込まれ、全6章51条となる大幅な改正が行われている。新解釈の施行日は2024年7月1日であり、2012年法釈は同日付で廃止されている。

本稿では、新解釈のうち特に重要と思われるポイントを簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は新解釈の該当条文を指すものとする。

独占民事紛争の訴訟手続に関する規定

まず、新法釈によれば、「独占民事紛争事件」とは、自然人、法人又はその他組織が独占行為により受けた損失及び契約内容又は事業者団体の定款・決議・決定などの独禁法違反により生じた紛争について、独禁法に基づき人民法院に対して提起する民事訴訟事件をいうものとされている(第1条)。2012年法釈では明確になっていなかったが、新解釈は、独占行為による損失や独禁法違反により生じた紛争の存在を前提としており、原告が被告の行為に対し、民事責任を追及せず、独占を構成する旨の認定のみ請求する場合、人民法院は当該請求を受理しない旨を明確にしている(第2条2項)。次に、一方当事者が民事訴訟を提訴したことに対し、他方当事者が当事者間の契約関係に仲裁合意があることを理由として事件の不受理を主張した場合でも、人民法院は当該主張を支持しない旨の規定が設けられた(第3条)。

関連市場」画定の立証責任

関連市場とは、事業者が一定の期間において、特定の商品又はサービスについて競争を行う商品の範囲又は地理的な範囲をいうものとされている(独禁法第15条2項)。

独禁法において、関連市場の概念は、事業者による独占合意の禁止、事業者の市場における支配的地位の濫用の禁止、競争を排除・制限する効果を有し、又はそのおそれのある事業者に対する集中規制等、多岐にわたる分野に影響を及ぼす。

その意味で、関連市場の立証責任及び立証方法は実務上重要であるが、新解釈は、関連市場の画定についての立証責任は原告が負うものとし、原告は、通常、「関連市場」の画定をした上で、その証拠を提出するか、理由を十分に説明しなければならないとしている(第14条1項)。

一方で、原告が訴訟対象行為について、証拠をもって、直接、独占合意の締結による明らかな市場独占、市場の支配的な地位、独占行為による競争の排除・制限効果を証明することができた場合、例外的に、関連市場の画定についての立証責任を負う必要はない旨が定められている(第14条3項柱書)。

「協調行為」を判断する際の考慮要素

独占合意とは、競争を排除しもしくは制限する合意、決定又はその他の協調行為をいうものとされている(独禁法第16条)。

実務上、協調行為は記録を残さず秘密裏に行われることが多く、原告側が証明することには困難を伴うケースが多い。この点について、新解釈は、その他の協調行為の有無を判断する際、以下の要素を総合的に考慮する旨を規定した(第18条)。

1.事業者の市場行動に整合性があるかどうか

2.事業者の間で;意思の連絡、情報交換、伝達が行われているかどうか

3.関連市場における市場構造、競争状況及び市場変化等の状況

4.事業者が行動の一貫性について合理的な説明を行うことができるかどうか

具体的な立証の流れとしては、まず、原告において上記1と2又は1と3の初期的な証拠を提出し、当該証拠により事業者による協調行為の蓋然性が証明できた場合、続いて、被告は、上記4行動の一貫性について合理的な説明を行うといったフローになることが想定される。

「支配的地位の濫用」の立証責任

訴訟の対象たる独占行為が市場における支配的地位の濫用に該当する場合、原告は、被告が関連市場において支配的な地位を有すること及び被告の市場支配的地位の濫用について立証責任を負う(2012年法釈第8条1項)。また、被告は、自らの行為に正当性があることを理由に抗弁を行う場合、立証責任を負う(同条2項)。

市場において支配的地位を有するか否かは、経済的な側面が強く、原告においてこれを証明することには困難を伴う。そこで、新法釈は、原告の立証責任を軽減し、被告が価格・品質・市場シェア等での競争状況を証明した場合、人民法院は、具体的な事案における関連市場の構造及び実際の競争状況を踏まえ、関連市場の経済規律等の経済学の知識も併せて、事業者が関連市場において支配的地位を有するものと認定できると規定した(第29条)。

損害賠償額の算定方法

独占行為の実施による損害賠償額の算定は、裁判実務上の難点でもある。新法釈は、独占行為により原告が受けた損害には、直接的な損害と逸失利益が含まれるものとし、損害算定の際に、以下の要素を考慮する旨を規定した(第44条1項)。

1.独占行為の実施前又は実施後及びその実施期間中の関連市場における商品の価格、経営のコスト、利益、市場シェア等

2.独占行為の影響を受けていない比較可能な市場における商品の価格、経営のコスト、利益等

3.独占行為の影響を受けていない比較可能な事業者の商品の価格、経営のコスト、利益、市場シェア等

4.原告が訴訟対象の独占行為の結果として損害を受けたことを合理的に証明できるその他の要素

また、前項によって具体的な損失額を決定することが困難である場合、人民法院は、独占行為の性質、程度、期間及び獲得した利益等の要素を考慮し、自らの裁量により賠償額を決めることができると規定されている(第44条2項)。

おわりに

新法釈は独占民事粉争事件の法律適用について、独禁法の改正を踏まえた重要な判断指針を示している。本稿に記載した事項以外にも、データ、アルゴリズム、技術などの手段を利用した独占行為の認定方法も定めており、新たな経済活動が独禁法に抵触するか否かについても一定の指針を示している。

新法釈は、独占民事紛争事件を審理する際に、裁判実務上の重要な指針となるため、今後も裁判例の動向等を引き続き注視する必要がある。

 


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