「最高人民法院による人工知能に関連する紛争事件の法的審理に関する意見」
2026年9月7日、最高人民法院は「人工知能に関連する紛争事件の法的審理に関する意見」(法発〔2026〕10号、以下「意見」という)を公布し、公布日から施行される。意見は、「中華人民共和国民法典」、「中華人民共和国サイバーセキュリティ法」、「中華人民共和国データセキュリティ法」、「中華人民共和国著作権法」、「中華人民共和国個人情報保護法」などの法律に基づき制定されたものであり、中国初の人工知能(AI)関連紛争に関する体系的な司法裁判指針である。これにより、これまで各地の裁判所が関連事件を審理してきた裁判経験を整理し、全国統一の裁判参考とした。意見は計24条からなり、主な内容は以下の通りである。
一、帰責の原則と製品責任の境界
人工知能の利用により民事上の権益が侵害された場合に生じる法的責任について、法律において無過失責任又は過失推定責任の適用が明確に規定されていない場合は、「民法典」第1165条第1項に規定される過失責任の原則に基づき、不法行為責任を認定する(第3条)。過失及び過失の程度を判断する際、裁判所は、AIの具体的な利用場面、自律性の程度、技術及び情報の透明性、潜在的なリスク及び影響範囲、開発者や提供者などが講じたリスク防止措置、利用者の予見及びコントロール能力などの要素を総合的に考慮する(第3条)。
AI製品は、スマートロボットや自動運転車など、実物を媒体とする製品に限定される。実物の媒体を持たないAIサービスには製品責任は適用されない(第9条)。中国市場でAI機能を備えた実物製品を販売する企業は、クラウド型AIサービスとの責任適用の違いに注意する必要がある。
二、人格権益と個人情報の保護
生成型AIを利用して自然人の氏名、肖像などを処理する場合、法令に違反してはならず、公序良俗に反してはならない。同意を得ずに特定の自然人を識別可能なバーチャルイメージなどを生成した場合は、相応の責任を負う(第4条)。
AIモデルの学習のために、合法的に公開された個人情報を合理的な範囲内で処理し、かつ本人が明確に拒否していない場合、一般的には権利侵害とは認められない。ただし、個人の権益に重大な影響を及ぼす場合は、法に基づき本人の同意を得なければならない(第6条)。
行為者がAIを利用して人格権を侵害する違法行為を現在行っている、又は行おうとしていることを示す証拠があり、速やかに制止しなければその合法的な権益が回復困難な損害を受けることになる場合、人民法院に対し人格権侵害差止め命令を申請することができる(第8条)。
同一の商品又はサービスについて、事業者がアルゴリズムを利用して取引価格などの取引条件において不合理な差別的取扱いをし、他人に損害を与えた場合、事業者は不法行為責任を負う。人工知能を利用して「有名人を装って商品を販売する」行為が詐欺に該当する場合、消費者は懲罰的損害賠償を請求することができる(第19条)。
三、人工知能に関連する知的財産権紛争
人工知能によって生成されたコンテンツが他人の著作権を侵害する場合、人民法院は、人工知能サービスの種類、業界の特性、学習データの出所、各当事者の関与度、講じられた必要な措置、及び利益状況などの要素を総合的に考慮し、法に基づき開発者、提供者、利用者の責任を認定する(第12条)。利用者が先行作品の存在を知っていた、又は知るべきであったにもかかわらず、人工知能を利用して先行作品と実質的に類似する作品を生成し、かつ合理的な抗弁理由がない場合、侵害責任を負う(第12条)。
人工知能生成コンテンツの著作物性については、議論が分かれているため、意見では当面規定を設けない。
四、訴訟手続と救済メカニズム
意見は、人工知能に関連する事件の証拠審査規則を規定するとともに、人工知能を利用して虚偽の証拠を提出し、訴訟を妨害する行為を規制している(第17条から第19条)。さらに、意見は、人工知能に関連する紛争における国際的な司法交流・協力を強化し、国境を越えた人工知能及びデータ紛争の裁判規則の連携の整備を推進することを提唱している(第21条から第24条)。






