「最高人民法院による労働紛争事件の審理における法律適用問題に関する解釈(二)」
近年、労働争議案件の数が増加しつつ、新たな紛争が絶えず発生している。判決を統一するため、2025年8月1日に、最高人民法院は「最高人民法院による労働紛争事件の審理における法律適用問題に関する解釈(二)」(以下「解釈(二)」という)を公布し、複数の使用者による同一の労働者の雇用(中国語では「混同用工」)、社会保険紛争及び競業避止などの問題について詳細的に規定している。本解釈は全21条から構成され、主な内容は以下の通りである。
一、混同用工の法的責任
司法実務において、混同用工問題についての処理方法は統一されていない。「解釈(二)」によれば、労働者が複数の関連関係にある企業によって交替又は同時に雇用され、書面による労働契約が締結されている場合、契約に基づいて労働関係を確定するが、書面による労働契約が締結されていない場合、雇用管理行為に基づき、労働時間、業務内容、労働報酬の支給、社会保険料の納付等の要素を総合的に考慮して労働関係を確認し、関連企業が共同で労働報酬や福利厚生等の責任を負うことと規定されている。(第3条)。
二、外国人労働者の構成要件の明確化
外国人は、国内企業との間で雇用関係にあり、かつ永住資格を取得した又は就労許可を保持し合法的に居留でき、又は国家の規定に従って関連手続を履行した場合、企業との間で労働関係が成立している(第4条)。具体的には、ノーベル賞受賞者や大規模投資家などの高級人材を含む「外国人永住者身分証」を所持する者は、煩雑な就労許可手続きを経ることなく、「労働契約法」の全面的な保護を直接的に享受することができる。永住資格を取得していない場合、有効な就労許可を所持していることに加え、外国人は中国国内で合法的に滞在・居住している状態でなければない。また、特定の状況下で関連手続きを完了すれば、労働関係が存在すると見直す。例えば、海上石油作業の就労許可証や国境地域での臨時就労許可等がこれに該当する。
三、2倍賃金の支払い義務における但し書き規定の追加
使用者が期限内に書面による労働契約を締結していないとしても、2倍の賃金を支払わなければならない(「労働契約法」第82条)。しかし、司法実務において、不可抗力により書面による労働契約が締結されなかった場合や、労働者本人の故意又は重大な過失により書面による労働契約が締結されなかった場合に、使用者は2倍賃金の支払い責任を免除されることができる。「解釈(二)」では、最高人民法院は上記の司法実務の成果を明確化し、包括条項(法律・行政法規が規定するその他の情形)を設けている。
四、労働契約期間満了後の期限内に更新拒否の意思表示がない場合の強制契約締結義務
「解釈(二)」第34条第1項によると、労働契約期間が満了し、期限内に更新拒否の意思表示がない場合、労働契約は継続して履行される。ただし、いずれの一方は労働契約を終了することができる。しかし、「解釈(二)」によると、労働契約期間が満了した後も労働者が使用者で働き続け、使用者が1ヶ月以上異議を申し立てない場合、労働者は使用者に対して元の条件で労働契約を更新するよう請求することができる(第11条第1項)。言い換えれば、この場合、使用者は任意に契約を終了させる権利を有さず、強制的に契約を締結する義務を負うこととなる。
五、競業避止条項に対する制限
「解釈(二)」では、特別な発効要件と構成要件を設けることによって競業避止条項に制限を加えた。使用者の営業秘密や知的財産権に関する秘密事項を知らない、又は接触しなかった場合、労働者に競業避止義務を負わせる条項の効力は発生しない。競業避止条項で定められた競業禁止の範囲、地域、期間などの内容が労働者の知っている、接触した営業秘密や知的財産権に関する秘密事項と適合しない場合、競業避止条項の合理的な範囲を超えた部分は無効となる。(第13条)