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ホームページ > 論文/書籍 > 法律考察 > 知的財産権に係る第一審の民事・行政事件の管轄に関する若干の規定

知的財産権に係る第一審の民事・行政事件の管轄に関する若干の規定

 2023-02-14198

中国の民事訴訟及び行政訴訟は、「四級二審制」1を採用している。四級の裁判所の位置づけとして、最高人民法院は、「基層人民法院は事実を調査して紛争を実質的に解消すること、中級人民法院は第二審として紛争を正確に終了させること、高級人民法院は再審で誤りを是正し、審判の基準を統一させること、最高人民法院は全国の審判業務を監督指導し、法適用の正確性及び統一性を確保すること」という方針を示している2

ところが、知的財産権に係る民事訴訟及び行政訴訟の一審管轄裁判所は、普通裁判における審級の判断基準と異なり、これまで知識産権法院(北京、上海、広州、海南省)や裁判所に設置される知識産権法廷に集中されてきた。

そして、知的財産権をめぐる紛争事件の裁判管轄は、「知的財産権の種類」+「訴訟案件事由」+「訴額等の事件の規模」によりその都度決定され、必ずしも明確にされていないという事情が生じている。このため最高人民法院は、知的財産権に係る事件の一審裁判管轄を明確にすることを目的に、2022420日、「知的財産権に係る第一審の民事・行政事件の管轄に関する若干の規定」(法釈【2022】第13号、以下「管轄規定」という)を公布した。管轄規定は同年51日より施行されている。

本稿では管轄規定の主要な内容を紹介する。なお、特段の記載がない場合、以下の条数は管轄規定の条文を指すものとする

専門技術性の高い知的財産権事件の管轄

管轄規定によれば、以下の民事事件及び行政事件については、知識産権法院、省自治区直轄市所在の中級人民法院及び最高人民法院が確定した中級人民法院が、第一審の管轄裁判所となる(第1条)3。そして、これらの事件については、最高人民法院が第二審を管轄する4

1.   発明、実用新案、植物新品種、集積回路配置図の設計、技術的営業秘密、ソフトウェア(専門技術性の高い知的財産権事件)の権利帰属、権利侵害紛争に係る事件

2.   独占禁止に係る事件

なお、訴訟案件事由の区別としては、「知的財産権民事事件」は、主に著作権、商標権、特許権、技術契約、営業秘密、植物新品種、集積回路配置図の設計等の知的財産権、不正競争、独占、フランチャイズ契約等に係る民事紛争事件を指し、「知的財産権行政事件」は、行政機関の著作権、商標権、特許権等の知的財産権、不正競争、独占等に係る行政処分に対して提起した行政訴訟を指すことが一般的である。また、上記1.の権利帰属、権利侵害紛争には、主に上記権利の出願権や権利帰属の確認訴訟、権利の非侵害確認訴訟、標準必須特許の使用料請求、権利侵害に基づく損害賠償請求、仮処分申請による損害賠償請求などをめぐる紛争が含まれており、上記2.の独占禁止紛争には、独占合意、市場支配地位の濫用、事業者結合をめぐる紛争が含まれる5

これにより、これまで上記裁判所が第一審、最高人民法院が第二審を管轄していた技術系知財契約関係(例えば、技術開発契約、特許実施許諾契約など)の紛争事件は、技術的判断を要しないという理由で、後述の一般的な知的財産権に分類されることになった6

意匠権と著名商標の認定事件の管轄

意匠権の権利帰属・権利侵害、著名商標の認定に係る民事事件及び行政事件の第一審管轄裁判所は、これまで専門技術性の高い知的財産権と同等に取り扱われていた7

これに対し管轄規定は、かかる事件は一般的に専門性の高い技術に関わるものではなく、これを知識産権法院及び各地の中級人民法院が管轄するものとした。さらに、今後の事件数の大幅な増加が想定されるため、最高人民法院の承認を経て、一部の基層人民法院がこれを管轄できるとされている。ただし、意匠権に関する行政訴訟は、基層人民法院の管轄から除外されている(第21項)。

一般的な知的財産権事件の管轄

専門技術性の高い知的財産権、並びに、意匠権の権利帰属・権利侵害紛争及び著名商標の認定をめぐる紛争以外の「一般的な知的財産権」(例えば、著作権、商標権、企業名称(商号)権、ドメイン名など)に関する民事訴訟・行政訴訟の第一審は、原則として最高人民法院が指定する基層人民法院が管轄するものとされている(第3条)。

これを受けて、最高人民法院は2022420日に「基層人民法院による知的財産権民事、行政事件の第一審管轄基準の公布に関する通知」(法【2022】第109号)8を公布した。当該通知は、「一般的な知的財産権」紛争の第一審管轄権を有する基層人民法院をリスト化(計556ヶ所)したうえ、それぞれの管轄地域と訴額の上限を明示している。

各地方の対応

管轄規定の施行に伴い、上海市や福建省等の高級人民法院は、相次いで管轄規定をローカライズした規定を公布した。例えば、専門技術性の高い知的財産権の権利帰属・侵害紛争事件について、上海市では、一方の当事者が外国企業(又は上海居住者でない)の場合、訴額が1億元を超過すれば、上海市高級人民法院が第一審裁判所となる9。これに対して、天津市では、同じ種類の事件について、訴額と関係なく一律に天津市知的財産法廷が第一審裁判所として管轄するものとしている10

近年、中国における知的財産権紛争事件の増加とともに、IT分野、遺伝子技術、人工知能、プラットフォーム経済などの分野で新しいタイプの紛争事件が次々と生じており、事実認定や法律適用が複雑な事件も増えている。管轄規定により、知的財産権事件の審級管轄制度の明確性が改善され、裁判効率が向上することが期待される。

 

基層人民法院、中級人民法院(重大な渉外事件・当該管轄区内において重大な影響を及ぼす事件の管轄)、高級人民法院(当該管轄区内において重大な影響を及ぼす事件の管轄)、最高人民法院(全国的に重大な影響を及ぼす事件の管轄)という四段階の裁判所が設けられている。当事者は、一審判決に不服を有する場合、上級裁判所に一度だけ上訴することができるが、二審判決に対して更なる上訴は認められない(「民事訴訟法(2021年改正)」第10条、「行政訴訟法(2017年改正)」第7条)。なお、既に法的効力を生じた判決や裁定等について、明らかな誤りがあると認められる場合に、当事者の申立て又は人民法院の判断により、当該事件を再度審理する裁判監督手続として「再審」制度がある(「民事訴訟法(2021年改正)」第205条以下、「行政訴訟法(2017年改正)」第90条以下)。

四級法院の審級職能位置づけの改革執行の改善に関する実施弁法(法【2021】第242)1条。

なお、上記権利の行政訴訟事件のうち、中国国家知的財産局が下した特許関連(発明・実用新案・意匠)、商標、植物新品種・集積回路配置図の設計などの権利付与・権利確定に係る決定に対する行政訴訟事件の第一審は、北京知的財産法院の専属管轄である(管轄規定第12項、「北京、上海、広州知識産権法院の案件管轄に関する規定」(法釈【2014】第12号、202012月改正)第5条)。

4 「特許等知的財産権事件の訴訟手続の若干問題に関する全人代の決定(201911日施行)」第1条及び第2条。

「民事案件事由規定」(法【2020】第347号、20201229日改正)第五部分「知的財産権と競争紛争」を参照されたい。

知的財産権に係る契約紛争事件の第二審の管轄裁判所は最高人民法院ではなく、当該基層人民法院に相応する中級人民法院又は知識産権法院である(「発明特許等の知的財産権契約に係る紛争事件の控訴における管轄問題に関する最高人民法院の通知」(法[2022]127号)。

脚注10及び「著名商標の認定に係る民事紛争事件の管轄問題に関する最高人民法院の通知(法[2009]1号)」を参照されたい。

8  https://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-355831.html

上海市高級人民法院公式サイトhttp://www.shcipp.gov.cn/shzcw/gweb/xxnr_view.jsp?pa=aaWQ9MjAyODMzNjcmeGg9MSZ0eXBlPTEPdcssz

10  天津市河西区人民法院公式サイトhttp://hxqfy.tjcourt.gov.cn/article/detail/2022/04/id/6664204.shtml