『労働災害保険条例』の施行に関する若干の問題についての意見(三)
「労働災害保険条例(2010年改正)」(以下「条例」という)は、現行の労働災害保険に関する主要な規範であり、労働災害の認定について詳細な規定を設けている。しかしながら、在宅勤務の増加、出前配達員などの新たな雇用形態の出現、および条例自体に明確な規定がないことから、条例を直接適用して適切に対応できない紛争が発生している。これらの問題を解決するため、2025年11月13日、人力資源社会保障部は「『労働災害保険条例』の施行に関する若干の問題についての意見(三)」(人社部発〔2025〕62号、同日施行、以下「意見三」という)を発表した。意見三は計12条で、主に条例第14条、第15条及び第62条について詳細な規定を設けた。
本稿では、意見三の特に重要と思われるポイントを簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は意見三の当該条文を指すものとする。
■労働時間、勤務場所及び業務上の原因の定義の明確化
労働時間及び勤務場所において、業務上の原因により事故による傷害を受けた場合、労働災害と認定すべきであると定められている(条例第14条第1項)。しかしながら、労働時間、勤務場所、および業務上の原因の認定に関しては、司法実務がかなり曖昧であり、多くの論争を引き起こしている。フレックスタイム制における労働時間の認定方法や、在宅勤務時の勤務場所の認定方法については、統一されていない。これに対し、意見三は労働時間、勤務場所及び業務上の原因の内包と外延を明確化した。
·労働時間とは、法律で規定される、または雇用主が従業員に要求する労働時間を指す。次に掲げるものを含むが、これらに限定されない。(1)法令で定める労働時間、(2)労働契約で定める労働時間、(3)雇用主が定める労働時間、(4)雇用主から臨時で指示された業務または特定の業務任務を遂行するための時間、(5)残業時間(第1条)。
·勤務場所とは、従業員が職務を遂行する区域及び職務遂行に必要な合理的な区域を指す。次に掲げるものを含むが、これらに限定されない。(1)雇用主が従業員の日常的な生産経営活動に対して効果的な管理を行える区域、(2)従業員が特定の業務を遂行するために必要な、当該事業場以外の関連区域、(3)従業員が業務上、その職務に関連する複数の職場間を移動する合理的な区域(第2条)。
·業務上の原因とは、従業員の負傷と職務遂行との間に因果関係が存在することを指す。次に掲げる場合を含むが、これらに限定されない。(1)本職の生産経営活動に従事したために負傷した場合、(2)使用者から指示された業務を遂行したために負傷した場合、(3)雇用主の正当な利益を守るために負傷した場合、(4)勤務時間中に合理的な場所において、必要不可欠な生理上の欲求を満たすために負傷した場合(ただし、完全に個人の原因による負傷は除く)(第3条)。
■交通事故に基づく労働災害認定の明確化
条例では、通勤途中に従業員が自己に主要な責任のない交通事故による傷害を受けた場合、労働災害と認定すべきであると規定している(第14条第6項)。しかし、「通勤途中」の認定については、条例及びその解釈において明確な規定はない。裁判所は通常、目的・時間・経路を総合的に判断すべきであると考えている。解釈三は司法実務を固定化し、「通勤途中」の内涵を以下のように明確化した。
従業員が通勤を目的として、合理的な時間内に勤務先と居住地の間を往復する合理的な経路は、通勤途中とみなされる。これには以下が含まれる。(1) 合理的な時間内に勤務地と住所地、常居地、社宅の間を往復する合理的な経路の通勤途中、(2) 合理的な時間内に勤務地と配偶者、父母、子女の居住地の間を往復する合理的な経路の通勤途中、 (3) 日常的な仕事や生活に必要な活動に従事し、かつ合理的な時間と合理的な経路を通勤途中に該当するもの、(4) その他合理的な時間と合理的な経路を通勤途中に該当するもの。合理的な時間及び合理的な経路の判断は、日常的な通勤の周期性や相対的な固定性などを総合的に考慮して行うものとし、休暇など個人の活動や私事の処理に該当する往復の時間及び経路は含まれない。
■在宅勤務における労働災害認定の明確化
条例では、労働時間中かつ職場において、従業員が突発的な疾病により死亡した場合、または48時間以内に救急処置にもかかわらず死亡した場合、労働災害とみなすと規定している(第15条第1項)。しかし、在宅勤務中に従業員が突発的な疾病で死亡した場合の認定については、実務上依然として議論がある。意見三は在宅勤務中の突発性疾病による死亡時の認定基準を明確化した。具体的には、雇用主の指示による在宅勤務であり、かつ日常的な業務強度・業務状態と基本的に一致し、明らかに従業員の休息時間を占有している場合、「労働時間及び勤務場所」とみなすことができる(意見三第9条)。
■労働災害保険料の追納義務主体範囲の明確化
条例は、労災保険に加入すべきであるにもかかわらず加入していない場合、雇用主は納付すべき労災保険料を遡って納付し、かつ滞納開始日から日割りで万分の五の延滞金を加算して納付しなければならないと規定している。期限を過ぎてもなお納付しない場合、滞納額の1倍以上3倍以下の罰金を科す(同法第62条第1項)。この場合、雇用主に追納義務があるか否かは不明確であった。「社会保険法(2018年改正)」施行後、雇用主が社会保険料を期限内に全額納付しなかった場合、納付または追納するとともに、未納日から起算して日割りで万分の五の延滞金を加算して納付しなければならない。期限を過ぎてもなお納付しない場合、関係行政部門が未納額の1倍以上3倍以下の罰金を科す(同法第86条)。意見三は本条に基づき条例の解釈を調整し、条例第62条第3項における「雇用主」とは、従業員全体(または一部)が法に基づき保険加入登録を行っていない、または保険加入登録のみを行い労災保険料を法に従って納付していない雇用主を指すことを規定した。これにより、条例は社会保険法第86条と整合性を保っている。
■おわりに
意見三は雇用主に明確な労災認定基準を提供し、労働時間や在宅勤務などの状況における判定基準を明確化することで、認定の曖昧さから生じるリスクを軽減する。雇用管理の安定化を図るため、雇用主は今後、意見三に基づき制度を調整し、新たな雇用形態におけるリスク管理ニーズにより適切に対応する必要がある。






