他人の商業秘密を不正に使用し、権利化した場合の権利帰属をめぐる紛争について―錦天城法律事務所シニアパートナー 丁華―
「最高人民法院による商業秘密侵害民事案件の審理における法律適用の若干問題に関する規定」(法釈〔2020〕7号)第九条によれば、「権利侵害で訴えられた者が生産活動において直接に営業秘密を使用したり、商業秘密を変更し、改良して使用したり、営業秘密に基づいて関連生産活動を調整、最適化、改良したりした場合、人民法院は、不正競争防止法第九条でいう商業秘密の使用に該当すると認定しなければならない。」とされています。商業秘密の三つの使用方法によって、実務中に他人の営業秘密を不法に使用することによって関連特許権の帰属に関する紛争がよく発生します。かかる紛争を対処するために、営業秘密の「秘点」(秘密の重要ポイント)を明確にし、「秘点」(秘密の重要ポイント)と特許の技術特徴を比較し、営業秘密の不法使用者が更なる実質的な技術的貢献をしたかどうかを判断し、関連する特許の帰属を対処する必要があります。
1、 営業秘密の「秘点」(秘密の重要ポイント)
最高人民法院がかつて発表した指導意見(法発〔2011〕 18号)によると、法的条件に合致する営業秘密情報を根拠として、営業秘密の保護の範囲を正確に定義し、各単独の営業秘密情報ユニットはいずれも独立した保護対象を構成するとされています。
中国知的財産権研究会が発表した「営業秘密鑑定規範」団体基準によると、「秘点(秘密の重要ポイント)とは、権利者が主張する営業秘密情報の具体的な内容であり、秘点(秘密の重要ポイント)の説明とは、秘点(秘密の重要ポイント)を記述し、説明する文書である。」とされています。
裁判例:最高人民法院(2021)最高法知民終2526号北京半導体専用設備研究所と顧海洋等の技術秘密侵害紛争事件の二審裁定においては、「権利者が図面に記載された技術情報が技術秘密を構成すると主張する場合、それは図面に記載されたすべての技術情報の集合が技術秘密に属すると主張することもできるし、図面に記載された技術情報又は一部の技術情報が技術秘密に属すると主張することもできる。図面は、技術秘密の媒体であり、図面に基づいてその主張する技術秘密の内容と範囲を確定することができるため、本件において、四十五所が主張する保護すべき技術秘密の内容は明確である。」と述べました。
2、 特許の技術的な特徴
2.1技術的な特徴の概念
最高院は、(2017)最高法民申3802号事件(「3802号事件」)の判決文において、特許権侵害訴訟における技術的な特徴の区分に関する指導に類似する方法を示しました。技術的な特徴の区分は、発明の技術方案全体を結合し、相対的に独立して一定の技術的な機能を実現し、かつ相対的に独立した技術的な効果を生み出すことができる比較的小さい技術ユニットを考慮しなければならない。
2.2必要な技術的な特徴、区別する技術的な特徴、付加的な技術的な特徴
中華人民共和国特許法実施細則(2010改訂)
第二十一条 発明又は実用新案の独立請求項は、前序部分及び特徴部分を含み、以下に掲げる規定に従って記載しなければならない。
(一)前序部分:保護を求める発明や実用新案の主題名称及び発明は、実用新案の主題と最も近い先行技術と共通する必要な技術的特徴を明記する;
(二)特徴部分:「その特徴は…である」又はこれに類似する表現を用い、発明又は実用新案が最も近い先行技術と異なる技術的特徴を明記する。これらの特徴及び前序部分に名記された特徴と合わせて、発明又は実用新案の保護を要求する範囲を限定する。
第二十二条 発明又は実用新案の従属請求項は、引用部分及び限定部分を含まなければならず、以下に掲げる規定に従って記載しなければならない。
(一)引用部分:引用請求項の番号及びその主題の名称を明記すること
(二)限定部分:発明又は実用新案の付加的な技術的特徴を明記すること
特許の技術的な特徴は、独立請求項における前序部分の必要な技術的な特徴、特徴部分の区別する技術的な特徴及び従属請求項における付加的な技術的な特徴に大別することができる。
3、 商業秘密の密点(秘密の重要ポイント)と特許の技術的な特徴の比較及び他人の商業秘密技術の秘密侵害による特許権の帰属紛争に対する中国の裁判所の取扱意見
まず、商業秘密への権利侵害に該当するかどうかを判断し、商業秘密への侵害に該当する場合、更に以下のことを判断する。
3.1商業秘密の密点(秘密の重要ポイント)と、特許の区別する技術的な特徴及び付加的な技術的な特徴を重点的に比較し、両者が実質的に同一である場合、商業秘密の技術方案に基づき、特許権者が更なる実質的な技術貢献をしていない場合、技術秘密は特許に転化し、特許権は商業秘密の権利者に帰属する。
裁判例:最高裁判所(2020)最高法知民終1652号魯西化工集団股份有限公司、航天長征化学工程股份有限公司に関する特許権の権利帰属紛争の二審判決においては、「非公開の技術方案を権利主張の基礎とする特許権の権利帰属紛争において、『発明創造の実質的特徴に対する創造的な貢献』に関する判断は、特許の出所である非公開の技術方案を基礎としている。このような状況において、他人の非公開技術方案に変更を加えて特許を出願する側は、単独又は共同で特許権を所有する場合、少なくとも研究開発過程、技術効果等の内容を体現する証拠又は理由により、他人の非公開の技術方案を基礎として、さらに実質的な技術貢献をしたことを証明又は合理的に説明しなければならない。」と述べた。
3.2商業秘密の密点(秘密の重要ポイント)と、特許の区別する技術的な特徴及び付加的な技術的な特徴を比較し、一部が実質的に同一であり一部が異なる場合、すなわち、商業秘密の技術方案に基づき、特許権者は更なる実質的な技術貢献をした場合、双方が特許技術方案に対していずれも貢献があり、特許権商業秘密権利者と元権利者が共有とする。
裁判例:最高裁判所(2020)最高法知民終871号天津青松華薬医薬有限公司と華北製薬河北華民薬業有限責任会社に関する特許権の帰属紛争の二審民事判決において、「係争中の特許は、青松公司の技術秘密を開示して使用したため、青松公司は係争中の特許に対して権利を享有しなければならない。華民公司は青松公司の本件に係る秘密保持技術を獲得した上で、係争中の特許の権利請求項1のステップc)に対して創造的な貢献をしたため、青松公司、華民公司は本件に係る特許に対して創造的な貢献をしたと認定することができる。現在の証拠では青松公司と華民公司の両方が本件に係る特許権に対する貢献度を区別できないため、本件に係る特許権は青松公司と華民公司が共同で共有すべきである。」と述べた。
異なる視点:中国の特許法及びその関連規定は、特許の中の一部の請求項を分離して使用される場合を考慮していないため、特許権権利を部分的に共有することは実務において実行の可能性がない。営業秘密と特許権者の間には、発明創造の共同完成に関する合意が欠けており、二者間にも相続、承継及び契約などの法律行為によって相応の特許権共有関係が生じる可能性が存在しないため、二者間には特許権共有関係を形成する法律と事実根拠はない。
不法使用者が許諾を得ずに他人の商業秘密に基づいて自身の技術方案を調整、最適化、改良した後に発明創造を完成した場合、技術秘密権利者は権利侵害の訴訟において権利侵害の損害賠償を主張することができるだけで、これについて相応の発明創造の特許権権利帰属を主張することはできない。但し、元々の技術の優先使用権を享有することができる。
3.3商業秘密の密点(秘密の重要ポイント)と、特許の区別する技術的な特徴及び付加的な技術的な特徴を重点的に比較し、両者が実質的に異なり、商業秘密の技術方案に基づき、特許権者が更なる実質的な技術貢献をした場合、技術秘密は特許に転化できず、特許権は元の特許権者に帰属する。