生態環境法典
2026年3月12日、中国全国人民代表大会は「生態環境法典」(以下、「法典」という、2026年8月15日より施行)を可決した。現在、中国はカーボンニュートラル及びカーボンピークアウトの目標達成を積極的に推進しており、企業のESG管理及び環境コンプライアンス基準の向上を図っている。法典の制定は、環境規制ルールを統合し、企業の環境責任をさらに強化することを目的としている。法典は、従来の「環境保護法」など生態環境分野の10の単行法を統合・廃止し、生産・経営を行う企業が負うべき環境保護責任を大幅に強化した。
法典は計5編1242条から構成されており、そのうち拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)、新型汚染の規制、環境違法責任の認定に関する規定は、中国に投資する日本企業のコンプライアンス経営に直接的かつ重大な影響を及ぼす。本稿では、法典主要ポイントを紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は法典の該当条文を指すものとする。
Ø EPR制度の法制化
EPR制度とは、生産者が、その生産した製品が使用され、廃棄された後においても、当該製品の適切なリユース・リサイクルや処分に一定の責任(物理的又は財政的責任)を負う制度を指す。
現行の「循環経済促進法(2018年改正)」第15条では、強制回収リストに掲載された製品を製造する企業は、廃棄された製品について回収責任を負うものと規定されている。しかし、同法には強制的な基準やそれに対応する罰則は設けられていない。
法典第978条では、「電気電子機器、自動車、鉛蓄電池、動力電池等の製品の生産者は、国の規定に基づき、自社で構築するか、又は委託するなどの方法により、製品の販売量に見合った廃製品回収システムを構築し、これを社会に公表して、回収及び利用の責任を履行しなければならない」と明確に規定されている。第1223条では、「本法の規定に違反し、電気電子製品、自動車、鉛蓄電池、動力電池等の生産者が、規定に従って製品販売量に見合った廃製品回収システムを構築し、社会に公開しなかった場合、工業・情報化、商務等の部門は職責分担に基づき、①是正を命じ、②是正を拒んだ場合は、5万元以上50万元以下の罰金を科す」と明確に規定している。
自動車製造及び電気・電子機器は、日本企業の中国における重点投資分野である。関連企業は直ちに、回収システムと製品販売量の整合性を確認し、自社で構築するか、法定資格を有する第三者機関に委託して回収ネットワークを整備し、全プロセスの追跡が可能な管理記録台帳を確立するとともに、要求に従って関連情報を公開し、行政処分のリスクを回避する必要がある。
Ø 新規化学物質及び光害の規制強化
(1)新規化学物質環境管理登録制度
新規化学物質とは、「中国既存化学物質リスト」に掲載されていない化学物質を指す。例えば、日本系化粧品企業が中国国内で生産・輸入する新規の化粧品有効成分、防腐原料、日焼け止め剤などが、当該リストに掲載されていない場合、いずれも登録義務の対象となる新規化学物質に該当する(第48条第1項)。
現行の「新規化学物質環境管理登録弁法」(生態環境部令第12号)では、登録証を取得せずに新規化学物質を生産・輸入した場合、又は登録証を取得していない新規化学物質を加工・使用した場合、1万元以上3万元以下の罰金が科せられると規定されている。
法典第651条は、「新規化学物質環境管理登録証を持たない、又は新規化学物質環境管理登録証の要件に従わない新規化学物質の製造・輸入を禁止する。新規化学物質環境管理登録証を持たない企業・事業体が製造・輸入した新規化学物質を使用して製品を製造することを禁止する」と明確に規定している。同時に、第1207条では、「本法の規定に違反し、新規化学物質環境管理登録証を持たずに新規化学物質を製造・輸入した場合、又は新規化学物質環境管理登録証を持たない企業・事業体が製造・輸入した新規化学物質を使用して製品を製造した場合、生態環境主管部門又は化学物質の製造・輸入・使用の監督管理職責を有するその他の部門は、職責分担に基づき①是正を命じ、20万元以上100万元以下の罰金を科す、②是正を拒んだ場合は、100万元以上200万元以下の罰金を科し、生産制限又は生産停止による是正を命じる、③情状が深刻な場合は、承認権限を有する人民政府の承認を経て、営業停止又は閉鎖を命じる。」と明確に規定している。
関連企業は、生産・輸入する化学物質のリストを全面的に整理し、新規化学物質の調査・登録を完了させ、重大な行政処分を招くことを回避する必要がある。
(2)光害防止の義務
現行法の下では、光害防止については「環境保護法」に原則的な記述があるのみであり、具体的な監督管理要件は上海、広東などの省・市の地方条例に分散している。上海市を例として、「上海市環境保護条例」第65条第2項第1文には、「道路照明、景観照明、及び屋外広告、屋外看板などに設置された照明光源が、照明の制限値等の要件を満たさない場合、設置者は速やかに調整を行い、周辺住民の正常な生活や車両・船舶の安全な走行への影響を防止しなければならない」と規定されている。
法典第671条は、「広告スクリーン、広告看板、ライトボックス、メディアファサード、道路、競技場、工事現場などにおいては、国の規定に従い照明施設を合理的に設計・設置・使用し、定期的な保守・点検を行い、光害を防止・軽減するための有効な措置を講じなければならない」と明確に規定している。第1210条は、次のように明確に規定している。「本法の規定に違反し、広告スクリーン、広告看板、ライトボックス、メディアファサード、道路、競技場、建設現場等において、光害を防止・軽減するための有効な措置を講じず、他人の正常な生活や交通の往来を妨害した場合は、住宅・都市農村建設主管部門、生態環境主管部門、交通運輸主管部門、公安機関の交通管理部門が職責分担に基づき、①是正を命じ、②是正を拒んだ場合は、5,000元以上5万元以下の罰金を科す。」
企業は、「建築環境一般規範」(GB 55016-2021)などの国家照明コントロール基準を遵守し、照明施設のパラメータと運用管理を適正化し、関連記録を保存することで、行政処分を回避すべきである。
Ø 二種類の罰則制度の統一
現行法の下では、二種類の罰則制度(すなわち、事業者と責任者を併せて処罰する制度)は、各単行の汚染防止法に分散して規定されている。例えば、「大気汚染防止法(2018年改正)」第122条では、大気汚染事故を引き起こした場合、関連する責任者に対して罰金を科すことができると規定されているが、各単行法によって適用要件や処罰の程度などは必ずしも一致していない。
法典第1064条は、「企業・事業単位、その他の生産経営者及び個人が環境を汚染し、生態系を破壊し、又は本法に規定されるその他の違法行為を行った場合、法に基づき法的責任を負わなければならない。環境汚染、生態系破壊事故を引き起こした場合、又はその他の法定事由がある場合、企業・事業単位、その他の生産経営者の法定代表者、主要責任者、直接責任を負う主管者及びその他の直接責任者(以下「法定代表者等」という)は、法に基づき法的責任を負わなければならない。」と規定している。法定代表者等が具体的に負う法的責任は、法典又はその他の法律・法規に基づき確定される必要がある。例えば、無断で固形廃棄物を投棄、堆積、遺棄、散布、散乱、焼却し、深刻な結果を招いた場合、法定代表者等は10日以上15日以下の拘留に処される(第1179条第1項。情状が比較的軽い場合は5~10日)。
Ø おわりに
「生態環境法典」の施行により、中国における日系企業の環境コンプライアンスの基本ルールと責任体系が全面的に見直されることになる。これにより、企業の環境法違反に対するコストが大幅に引き上げられるだけでなく、コンプライアンス責任が企業の高級管理職の個人に明確に帰属することとなる。コンプライアンス管理が適切に行われているかどうかは、中国における企業の事業の安定的な運営と、高級管理職の個人的な法的リスクに直結する。中国に進出している日系企業及び高級管理職は、早急に法典の要件に照らし合わせて包括的な環境コンプライアンスの特別チェックを実施し、コンプライアンス管理体制を整備し、法的リスクを事前に防止することで、中国における事業のコンプライアンスと持続可能な発展を確保することを推奨する。






