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ホームページ > 論文/書籍 > 法律考察 > 中国『民事訴訟法』第5次改正について

中国『民事訴訟法』第5次改正について

 2023-11-16252

202391日、中国全人代常務委員会において『中華人民共和国民事訴訟法の改正に関する決定』1が採択された。これを受け、改正民事訴訟法(以下「改正法」という)が202411日から施行される。中国『民事訴訟法』は、199149日の成立後、4回(200710月、20128月、20176月、202112月)にわたって改正が行われており、今回は5回目の改正である。改正法では、主に第四編「渉外民商事訴訟手続の特別規定」(特に渉外民商事訴訟事件に対する裁判管轄権の拡大、裁判文書の中国域外への送達や中国域外にある証拠の取調べ方法の修正、国際訴訟競合への対応、外国判決・仲裁判断の承認及び執行等)について新たなルールが設けられた。

本稿では、渉外民商事訴訟手続に関する改正法のポイントを紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は改正法の該当条文を指すものとする。


■ 渉外民商事訴訟事件に対する裁判管轄権の拡大

中国では、裁判管轄地として被告地主義が採用されている。現行法では、契約紛争又はその他財産権益に係る紛争により、中国領域2に住所を有しない被告に対して訴訟提起された場合、契約の締結地又は履行地、目的物所在地、差押に供することができる財産の所在地、代表機構の住所等が中国領域内にあれば、これらの所在地や住所に関係する人民法院が管轄権を有する旨定められている(現行法第272条)。

これに対し、改正法では、対象となる紛争を「身分関係に係る紛争を除いた渉外民事紛争」に拡大するとともに、①権利侵害地が中国領域内にある場合、②紛争が中国と適切な関連を有する場合も人民法院が管轄権を有する旨規定されている(2761項、2項)。

また、当事者双方が書面により合意した場合、人民法院を管轄裁判所として選択することができる旨の規定が追加された(第277条)。これにより、中国と適切な関連を有していない場合でも、合意さえあれば、人民法院の管轄権が認められることになる。

更に、人民法院が専属管轄権を有する事件として、現行法に定めている中外合弁経営契約等の履行に起因する紛争のほか、(i)中国領域内で設立された法人等の設立、解散、清算及び当該法人等が行った決議の効力等に起因する紛争、(ii)中国領域内で権利化される知的財産権の有効性に起因する紛争が新規で追加されている(279条)。

なお、『外国国家免責法』(202391日公布、202411日施行)第7条によると、外国国家は原則として司法管轄から免除されるところ、商業活動等非主権的な行為に起因する訴訟については、人民法院による管轄が認められている(305条)。


■ 裁判文書の中国域外への送達や中国域外にある証拠の取調べ方法の修正等

まず、渉外民商事裁判文書の中国領域外への送達について、改正法は「全国法院渉外商事海事審判業務座談会会議紀要(2021年)」の規定を踏襲している。すなわち、現行法では、外国当事者への送達について、訴訟代理人の委任状に裁判文書の代理受領が明記されていなければ、代理人宛に裁判文書を送達することができなかった。

これに対し、改正法では、中国領域に住所を有しない当事者について、訴訟代理人・中国の現地法人・中国国内に所在する外国法人や現地法人の法定代表者又は主要責任者(例えば、董事、監事、総経理)への送達を認め、電子方法による送達も認められた(28314号~7号、9号)。また、これらの方法を採れない場合の公示送達については、公示送達期間が従来の3ヶ月から60日に短縮されている(2832項)。

次に、中国領域外にある証拠の取調べについて、人民法院は、当事者の申立てにより、次の方法を採用できる旨の規定が設けられた(284条)。①中国籍を有する当事者・証人に対し、その所在国の中国大使館や領事館に依頼する方法、②双方当事者の同意を得てSNS等を通じて行う方法、③双方当事者が同意したその他の方法。

『民事訴訟法』の第4回改正では、電子方式による送達・公示等訴訟手続のオンライン化が推進された。改正法では、中国域外への送達と証拠取調べにも電子方法が認められることになり、裁判手続効率化の更なる促進が期待される。

 

■ 国際訴訟競合についての規則の追加

改正法は、同一紛争について人民法院と外国裁判所がいずれも管轄権を有し、当事者の一方が外国裁判所に提訴し、相手方当事者が中国法院に提訴する場合、または一方が外国裁判所と中国法院に同時に提訴する場合の対応を規定した(280条~281条)。

1.   当事者間で管轄合意により外国裁判所を選択し、かつ中国の専属管轄に反することなく、中国の主権・安全・社会公共利益に影響を及ぼすことのない場合、人民法院は訴訟を受理せず、または既に受理した訴訟を却下することができる。

2.   同一紛争について外国の裁判所が先に訴訟を受理した場合、法に定める事情3がある場合を除き、人民法院は、当事者の申請により訴訟手続を中止することができる。

また、改正法では「不便宜法廷地(Forum non convenience)」4の考え方が抗弁事由として明記されている。すなわち、紛争の基本的事実が中国域内で生じておらず、人民法院において審理を行うことが著しく不適切である場合、人民法院は訴えを却下し、原告に対しより便利な外国の裁判所に訴訟提起するよう告知することができる(282条)

 

■ 外国判決・仲裁判断の承認及び執行

まず、外国確定判決の中国における承認・執行申立ての許容性は、相互承認の原則により判断される(『民事訴訟法』298条)。この点について改正法は、人民法院が外国確定判決の承認・執行を認めない事由を新たに規定している(300条)。

1.   当該外国裁判所が事件に対して管轄権を有しないこと5

2.   被申請者が合法的な呼出しを受けず、若しくは呼出しを受けたとしても合理的な陳述及び弁論の機会がないこと、又は訴訟能力のない当事者が適切な代理を得ていなかったこと

3.   判決・裁定が詐欺の方法により取得されたこと

4.   同一紛争について、人民法院が既に確定判決・裁定を下しており、又は第三国の裁判所が下した確定判決・裁定が中国で既に承認済みであること

5.   判決・裁定が中国法の基本原則又は国家の主権・安全・社会公共の利益に反していること

次に、外国仲裁判断への承認・執行について、被執行人の住所地又はその財産が中国領域内になくとも、執行申立人は自分の居住地又は紛争と適切な関連を有する地の中級人民法院に承認・執行を求めることが可能となった(304条)。

 

■ おわりに

改正法は、渉外民商事訴訟事件に関する新たなルールを定めており、中国において又は中国企業とビジネスを行う外資企業にとって影響があるものと考えられる。そのため、改正法の内容や今後の実務動向を注視する必要がある。

 

※1 https://www.gov.cn/yaowen/liebiao/202309/content_6901570.htm 

2 民事訴訟法の適用に関する解釈』(法釈[2015]5号)第551条は、人民法院は、香港・マカオ特別行政区・台湾地区に係る民事訴訟事件を審理する場合、『渉外民事訴訟手続の特別規定』を参照して適用することができる旨規定しているため、「中国領域」は中国大陸を意味する(すなわち、香港・マカオ特別行政区・台湾地区は含まない)。

3 ①当事者が合意により人民法院を選択した場合、②人民法院の専属管轄に属する場合、③人民法院で受理することが明らかに便利である場合が挙げられている。

4 不便宜法廷地は『最高人民法院による「民事訴訟法」の適用に関する解釈(2022 年改正)』(法釈[2022]11号)第530条にも規定されているが、改正法は、同原則の適用範囲をより拡大し、中国法が適用されないことや中国国民や法人等の利益に関わらないこと等の制限を削除している。

5 次のような場合が該当する(第301条)。当該外国法に基づき管轄権を有せず又は適切な関連を欠く場合、中国法の専属管轄規定に違反する場合、当事者による専属的合意管轄に違反する場合。