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中国「企業国有資産の取引・譲渡関連事項に関する通知」

 2024-02-25118

2022516日、国務院国有資産監督管理委員会(SASAC)は、「企業国有資産の取引・譲渡関連事項に関する通知」(国資発産権規【202239号、以下「通知」をいう)を公布し、通知は同日施行された※1。通知は、2016624日施行の「企業国有資産取引監督管理弁法」(SASAC・財政部令第32号、以下「弁法」をいう)※2を前提に、企業国有資産に関する非公開取引の適用条件、公開取引における情報開示、取引後の商号使用禁止等に関する新たな規律を定めるものである。本稿では、通知の概要を紹介する。

■  非公開取引の適用条件

 企業国有資産(出資持分、資産)の譲渡及び増資は、原則として、財産権取引機構において公開で行うものとされている(弁法第13条、第39条、第48)。しかし、弁法では、国有企業間で国有資産の取引を行う場合、次の条件を満たせば、例外的に非公開方式(当事者間の協議)によることが認められている(弁法第31条)。

1.        主業務が国家安全・国民経済の重要分野やキーポイント領域に及ぶ企業※3の再編であり、譲受側に特別な要求があり、国有資産監督管理機構の承認を得ている場合。

2.        国家出資企業とその傘下にある国有支配企業が、同一グループ内の再編のために財産権の譲渡を実施し、国家出資企業の承認を得ている場合。

これに対し、通知では、上記のほか、政府又は各地方の国有資産監督管理機構が主導する国有資本の配置合理化や構造調整及び事業専門化再編等の重大事項について国有財産の譲渡が必要となる場合、同じグループ企業でなくても、国有企業間の取引を非公開方式で行うことができるとされている(通知第1条)。これにより、非公開方式を適用できる場合が弁法よりも拡大されたと評価することができる。

  公開取引における情報開示

外商投資企業含む民間企業が国有財産を買い取る場合、対象企業所在地の財産権取引機構において開示される情報に基づき取引を行う必要がある。
 この点について、国有財産取引に関する意思決定や手続には相応の期間を要するため、情報開示を仮開示と正式開示の二段階に分けることが取引の円滑化・効率化に資する(例えば、仮開示の時点では取引条件や最低価格を明示せず、基本的な情報を開示して潜在的な取引相手の感触を探ることが考えられる)。また、譲受希望者が正式開示期間に現れなかったものの、譲渡価格を変更すれば取引成立が見込まれるようなケースでは、通常よりも情報開示期間を短縮しても良いのではないかと考えられる。かかる事情を踏まえ、通知は、公開取引における情報開示の柔軟化を図るため、以下のような規定を設けている。

1.        増資取引における情報の二段階開示(通知第6条、第7条)

弁法では、出資持分譲渡について二段階の情報開示を定めるものの、増資取引の情報開示は一律に40営業日を下回ってはならないとしていた(弁法第13条、第39条)。これに対し、通知では、増資取引について次のような二段階開示を認めている。

a)       増資企業が二段階に分けて情報開示できるものとし、その開示期間は合計して40営業日(正式開示期間は20営業日)を下回ってはならない。

b)       仮開示情報には、増資予定の国有企業の基本状況、持分構成、直近3年間の監査済の主要財務指標、増資予定の金額等が含まなければならない。

c)       増資に関する社内決議を履行すれば仮開示が可能であり、最終的な認可手続を要する場合、その旨を提示しなければならない。

2.        譲渡価格変更に関する情報開示(通知第8条)

弁法では、出資持分譲渡の正式開示は20営業日を下回ることはできず、譲渡価格変更の場合も20営業日の開示を要するとされている(弁法第13条、第18条)。また、資産譲渡の公告期間は、譲渡価格によって10営業日~20営業日を下回らないものとし(弁法第50条)、譲渡価格変更の場合の再公告期間の定めはなかった。
 これに対し、通知では、譲受希望者がなく取引が成立しなかった場合、譲渡価格を変更して再び価格に関する情報開示を行うことを認めている。この場合、開示期間をそれぞれ最短10営業日(出資持分譲渡の価格変更)、5営業日(資産譲渡の価格変更)まで短縮することができる。

これを受けて、北京、上海、天津、重慶の財産権取引機構は、通知の内容に沿った公告を発表し※4、情報開示の手続等を統一させた。

  取引後の商号等の使用禁止

 持分譲渡の結果として国有企業の出資がマイノリティとなった場合、国有企業は当該企業の経営方針を決定できなくなる一方で、出資持分は残存するため、当該企業が国有企業の商号やのれんを引き続き利用しようとするケースがある。
 この点について、国有資産の流失を防ぐ観点から、20191212日、SASACは「中央企業の資本参加管理の強化の関連事項に関する通知」(国資発改革規2019126)を公布し※5マイノリティとなった資本参加企業が、中央企業の商号などを使用してはならないとした。

 通知は、上記規定に照らし、持分譲渡又は増資の結果、国家出資企業※6及びその子会社が対象企業への実質的支配権を失った場合、その商号、経営資質、フランチャイズ契約に基づく権利等の無形資産を使用してはならない旨を規定している(通知第9条)。

このように、中央企業のみならず、地方の国有企業についても、商号等の無形資産の使用が困難となる点に留意する必要がある。

  おわりに

 中国では、国有企業の経営活性化の一環として、混合所有制改革を進めており、国有資産の取引に関する法規定が完備されつつある。その結果、国有企業が外資企業など民間資本から経営資源や管理経験等を導入し、企業競争力を強化した例も少なくない※7

一方、民間企業については、国有資本の取引に参加することに伴うリスクも存在する。例えば、民間企業が国有混合所有制企業から撤退しようとする場合、国有資産の流失につながることを理由に撤退が制限されるおそれがある。また、国有企業の出資持分がマイノリティとなった結果、中外合弁企業が長年使用してきた企業名称や取引形態等を変更せざるを得なくなり、民間企業にも有形無形の影響が生じる可能性がある。

 日本企業が出資する現地法人についても、企業国有資産に関する取引に参加しようとする場合には、このようなリスクに注意する必要がある。

 

※1 http://www.sasac.gov.cn/n2588030/n2588944/c24873618/content.html

※2 http://www.sasac.gov.cn/n2588035/n2588320/n2588335/c4258310/content.html

※3 国家安全・国民経済の重要分野、キーポイント領域に関する法律上の規定は存在しない。SASACの解釈によれば、国民安全・国民経済の重要分野には、軍事国防科学技術、電力、石油石化、電信、石炭、航空運輸、海運、金融、文化が含まれる。また、キーポイント領域には、重要設備の製造、自動車、電子情報、建築、鉄鋼、有色金属、化学工業、建設観測設計、科学技術が含まれる。

http://www.sasac.gov.cn/n2588040/n2590387/new_wdxd_wz_index.html?MZ=7%2F0YztfPtbXBaavtKIB2sA%3D%3D

※4 例えば北京財産権取引所の公告

https://www.cbex.com.cn/gg/tzgg_1/gzss/202205/t20220525_117414.html

※5 http://www.sasac.gov.cn/n2588030/n2588924/c13590399/content.html

※6 「国家出資企業」とは、国が出資する国有独資企業や国有独資会社、及び国有資本支配会社や国有資本出資企業をいう(「企業国有資産法」第5条)。

※7 例えば、20176月、国有企業である東方航空物流有限公司(「東航物流」)に、シンガポールの政府系物流不動産大手Global Logistic Propertiesが資本参加し、物流面で東航物流の事業展開を支援している。20206月、東航物流は中国A株市場に上場した初の貨物航空会社となった。https://www.glp.com.cn/news/company/321.html参照。