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改正『反スパイ法』を読み解く

 2023-06-11430

新中国の成立以降、反スパイ活動は一貫して政府が注目する重大な問題であるが、中国の発展と情報技術の進歩や普及に伴い、1993年に公布された『国家安全法』は新時代における反スパイの要請に適応しなくなっていた。2014415日、国家主席により総体的な国家の安全観が新たに打ち出されたことを背景として、国際的に通用する方法を遵守し、立法による、反スパイ工作に対する規範化を開始した。そして同年111日、『反スパイ法』(以下、「旧法」)が第十二期全国人民代表大会常務委員会第十一回会議にて可決された。

先ごろ、新たな挑戦へ向き合い、国家の安全を保障するため、新たに改正された『反スパイ法』(以下、「新法」)が2023426日に可決され、同年71日から施行されることとなった。本稿は新法の改正内容を簡潔に解説する。

  スパイ行為の定義が拡大

旧法では国家秘密1もしくは情報に関するスパイ行為のみ規定されていたが、新法では「その他、国家の安全および利益に係わる文書、データ、資料および物品」もそのうちに包括され、合わせて「国家機関、機密に係わる単位もしくは重要情報インフラ2などへのネットワーク攻撃、侵入、制御、破壊などの活動」への規制が追加されている(新法第4条)。

ところが、新法は「その他、国家の安全および利益に係わる文書、データ、資料および物品」に対して定義しておらず、立法や法執行に解釈の余地を残している。特定の重要データ、特に公共通信や金融、エネルギー、交通、科学技術などの重要な業界、分野の重要的文書、データ、資料は、今後の法執行において新法の対象範囲に入る確率が高い3

この他、電子データの越境問題にも配慮しなければならない。『データ越境移転安全評価申告ガイドライン(第一版)』4によると、データ越境の技術的ルートを明確に限定してはいないが、データが国外組織もしくは個人によりアクセス、入手することができるだけでも、国外での違法利用の安全リスクが存在し、データの越境移転に属することになる。ひとたび当該電子データが上述した重要産業、分野の重要文書、資料に係われば、国家の安全、公共の利益を脅かす可能性があり、その場合にはスパイ行為に係わるリスクを備えることになる。

  国家安全機関の権限委譲を強化

 新法は、国家安全機関によるスパイ行為調査の権限を授与している。区を設ける市級以上の国家安全機関の責任者による批准を経て、国家安全機関は法に基づきスパイ行為の嫌疑のある人身、物品、場所に対して検査を行い、その関連する財産情報を照会することができる。スパイ行為に用いた嫌疑のある場所、施設もしくは財産に対しては、区を設ける市級以上の国家安全機関の責任者による批准を経て、国家安全機関は法に基づき差し押さえ、押収、凍結を行うことができる(新法第28293033条)。

 また、新法は国家安全機関に、スパイ調査、処分中に個人の出入国を制限する権限も授与している。スパイ行為嫌疑の人員に対して省級以上の国家安全機関は、移民管理機関に通知をして、その出国を禁止することができる。入国後に中国の国家安全を脅かす活動を行う可能性のある国外人員に対して、国務院国家安全主管部門は、移民管理機関を通じてその入国を禁止することができる(新法第3435条)。

    法律責任の改善

新法は行政処罰の範囲および行政処罰の種類の適用を拡大した。新法は、単位(組織など)もしくは個人によるスパイ行為の実施もしくは他人のスパイ行為実施を手助けすることに対して行政法律責任を追加。それには行政拘束、罰金、生産停止・営業停止命令、関連証書の取り消し、登記取消などが含まれる(新法第54条)。

同時に新法は、違法取得、データ保持に関連する行政処罰も相応に追加、国家安全機関は警告もしくは10日以下の行政勾留を科し、併せて三万元以下の罰金を科すことができる(新法第60条)。新法に違反した国外人員には、旧規定の期限までの出国もしくは国外追放の処罰の上、さらに入国禁止の制限が追加された。期限までに出国する者に対しては、国務院国家安全主管部門は、その入国禁止の期限を決定することができる。海外追放された者に対しては、海外追放された日から10年以内は入国してはならない(新法第66条)。

  新『反スパイ法』のもとでの企業コンプライアンス

 現在、中国は反スパイ活動を非常に重視しており、案件に係わる人員、会社に対して強硬な措置を採っている。例えば、2023515日には香港の永住権を持つ梁成運がスパイ罪により無期懲役に処され、併せて個人の財産50万人民元を没収された。この判決が下される少し前には、アステラス製薬の幹部が、スパイ活動に従事した疑いにより北京で逮捕・拘束されている。同時期にコンサルティング会社の凱盛融英(キャップビジョン)は、ハイテク、エネルギー資源、医薬衛生などの重点分野、重要業界の情報を収集し国外へ提供したとして、是正を強いられ、社内の関連人員も調査と処罰を受けた。

 これらの事件は国内外で広く耳目を集め、企業のコンプライアンスに新たな挑戦を課している。新法の要求に適切に対応できるよう、企業、特にエネルギー、電力、医薬品などの重要業界・分野の企業は以下に列記した事項を実施すべきである。

1.   内部評価システムを構築し、社内業務に係わる資料、文書およびデータの評価を行い、それが秘密に係わるか否か、もしくは中国の国家安全および利益に関連するか否かを確認しなければならない。

2.   秘密に係わるもしくは中国の国家安全および利益に関連する資料、文書およびデータに対しては、データ越境移転安全評価を適切に遂行し、中国の関連法律、法規(『中華人民共和国データセキュリティ法』『データ越境移転安全評価申告ガイドライン(第 1 版)』など)に基づき申告しなければならない。

3.   科学技術を用いて内部データ暗号化システムを構築、もしくは会社定款により秘密に係わる資料の安全管理システムを構築し、会社の内部データの漏洩を防止する。例えば、秘密に係わる文書を暗号化し、関連文書を使用もしくはダウンロードする際には登録を要求、または自動でのウォーターマーク追加を行い、遡及を保証し、対応する文書などの使用完了後には削除もしくは廃棄を要求する。同時に内部の従業員には合理的な基準を設けたり教育を行ったり、スパイに係わるリスクを回避すべきである。

4.   業務で取引する相手方に対しては必要な背景調査を行い、対応するデータ秘密保持プログラムもしくはシステムの構築または保有を要求し、情報漏洩の可能性を防止しなければならない。

 

1 国家秘密とは、国家の安全と利益に関係し、法律で定められた手順に基づき確定され、一定の時間で一定の範囲の人員に限って知ることができる事項を言う

2 重要情報インフラとは、公共通信および情報サービス、エネルギー、交通、水利、金融、公共サービス、電子政務、国防科学技術工業などの重要業界および分野を指し、またその他の、破壊、機能喪失もしくはデータ漏洩が起こった場合、国家の安全、国の経済と人民の生活、公共の利益に重大な損害を与える可能性のある重要なネットワーク施設、情報システムなどを指す。

3 例えば、航空会社の内部データとは、航運基礎データ、特定船舶の積荷情報、気象データなど

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1715099641705673237&wfr=spider&for=pc 

※4 国家インターネット情報弁公室公布『データ越境移転安全評価申告ガイドライン(第 1 版)』

http://www.cac.gov.cn/2022-08/31/c_1663568169996202.htm